宝石箱のような国スリランカ:同時多発テロの悲しみを越えて、改めて感じる魅力
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スリランカ同時多発テロから2週間。事件で初めてスリランカについて知る人も多いですが、治安が良く世界遺産も多い「癒しの国」として、近年日本人観光客も急上昇中。実際はどんな国?何があるの?――そんな基本情報と魅力が網羅された一冊『アユボワン!スリランカ』をご紹介します。

 

 

「あ~、ついに平和がやってくるんだ!」

 

コロンボの町じゅうにスリランカの国旗があふれていた。2009年5月。人々は笑顔を輝かせ、町の色さえがらりと変わったように見えたことをよく覚えている。四半世紀以上続いた内戦がようやく終わったのだ。誰もが平和な未来を信じて、まっしぐらに突き進み始めた。

 

実際、海外からの急激かつ多額な投資で、最大都市コロンボを中心に、スリランカはこの10年でみるみる発展した。

 

高速道路が走り、5つ星の名だたるホテルが建ち、海を埋め立てて新たな港町を建設し、南アジア一高いタワーがそびえる。どこを見ても高層ビルの建築中。先進国と似たような風景へと脱皮を図ろうとする町に、一抹の寂しさはあっても、大股で前進を続ける様子には、未来を切り拓く生命力がみなぎっていた……。

 

この国と出会ったのは2002年のこと。数千年前から続く伝統医療、アーユルヴェーダをきっかけに好きになり、これまでに50回渡航した。

 

『アユボワン!スリランカ ゆるり南の島国へ』の中で、私はスリランカをこんな風に賛美した。

 

スリランカに行き始めた頃、この国は原石の詰まった宝箱のようだと思った。こぼれ落ちる涙のようなティアドロップ型をしたスリランカの面積は、北海道より一回り小さいぐらいしかない。そんな限られたエリアに、セイロンティーで知られる世界有数の紅茶畑が連なり、地中では色とりどりのため息の出るような宝石が眠っている。海岸線沿いには緑に縁どられた美しいビーチが続き、内陸へ足を運ぶと象やヒョウなど野生の動物がゆったりと暮らす。

 

人々はブッダを敬愛してやまず、仏教遺跡や寺院など歴史的に意味深い場所は枚挙にいとまがない。自然を愛し、風習を大切にする暮らしの中で、伝統医療のアーユルヴェーダが今も利用され、そして南国のエネルギーに満ちたフルーツや、スパイスたっぷりのカレーが食欲を刺激する。

 

あらゆる類の新鮮な驚きが私を捉えた。同じアジアの仏教国なのに、こんなにも日本と違うのかと。女子のお遊びと思われがちな星占いさえも人々の暮らしに根付き、星の動きに合わせて暮らすスピリチュアル性にも魅かれた。行けば行くほど魅力は掘り起こされ、宝箱の中はやがて手垢のついていない原石のような魅力でぎゅうぎゅう詰めになっていた。
(文中抜粋)

 

内戦が終わって安全を取り戻すと、旅行者も増加の一途をたどり、今年は世界最大のガイドブック『ロンリー・プラネット』に2019年に最もお勧めの海外旅行先として選ばれていた。欧米人は内戦中から旅行に来ていたけれど、日本人にもようやく魅力が知られるようになり、ゴールデンウィークには多くの旅行者が来るはずだった。

 

 

そんな矢先に起きた連続爆弾テロ事件だった……。

 

「なぜ、こんなことが起きたの? どうしてスリランカなの? どうして…」

 

仏教国として知られ、大多数が仏教徒でも、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンズー教徒など、スリランカにはさまざまな宗教と人種が混在する。それは知っていても、内戦後は大きな問題もなかっただけに、何が起きたのか最初はさっぱり理解できなかった。津波が起きた時にそうだったように、ネットと知人への連絡で必死に情報を集めた。

 

コロンボを避ければ、大丈夫! そう信じて事件から3日後、旅行のキャンセルが相次ぐ中、私は以前に計画してあった通りスリランカ行きの飛行機に乗った。

 

夜間外出禁止令の出た町中は暗く、異様な光景の中を車でホテルへと向かう。空港から南へ3時間、コロンボを素通りし、南部の海岸線にあるアーユルヴェーダ・ホテルに着いた。私の首にテンプル・フラワーのレイをかけ、「Welcome to Sri Lanka」と迎えてくれた声が、胸の奥にずしんと響く。

 

無事に到着はしたものの、250人もの人が死亡したテロの直後に滞在を楽しめるものだろうか。そんな暗い気持ちも過る。

 

だが、ともに滞在することを決めてくれた仲間たちとおしゃべりをし、スタッフと笑顔を交わすにつれ、気持ちは軽くなっていった。日一日、笑顔が増えていくと同時につらい過去が癒されていく。私たちが笑い声をあげ、楽しむことが、たった今、彼らに対して出来ることなんだ。そう思うと気持ちは余計に晴れた。

 

事件から2週間以上たった今、夜間外出禁止令は全土で解除され、コロンボはいつも通りの日常をほぼ取り戻している。けれど、今しばらくはしんどい。長年この国と共に生きてきた者の一人として、私ができることは何なのか?スリランカに元気になってもらう特別なツアーもやるつもりだけれど、一番大事なことが笑顔であるように、おそらく小さなことを積み上げていくしかない。彼らがこれまで通りの暮らしを続けようとするのと同じように、私も緑に輝く島スリランカの魅力を伝え続けることが大切なんだ。

 

そしてしばらくして落ち着いた頃、研磨中の原石に出会いに、どうかスリランカを訪ねてみてください、と多くの人にお願いしたい。甘くておいしいミルクティー、象のサファリ、一枚岩の宮殿シギリヤロック、スパイスたっぷりのカレー……宝石箱の中から、自分のお気に入りを探しに。

 

「アユボワン!」のあいさつと一緒に、たっぷりの無垢な笑顔でスリランカの人たちが迎えてくれるはずだから!!

 

Love & Peace

 

(5月7日 執筆)

 

スリランカを愛し続ける作家・岩瀬幸代
海外旅行ライターとして20年以上にわたり四十数ヶ国、100回を超える渡航を繰り返す。2002年にスリランカのアーユルヴェーダと出会ったのをきっかけに、スリランカには50回渡航。現地では旅行ツアーもコーディネートしている。
著書に『緑の島スリランカのアーユルヴェーダ』(晶文社)、『アーユルヴェーダの聖地 スリランカ癒しの旅』(実業之日本社)、『迷走患者――〈正しい治し方〉はどこにある』(春秋社)など。
ブログ:http://ayubowan.seesaa.net

 

アユボワン!スリランカ』光文社知恵の森文庫
岩瀬幸代

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