オーロラはなぜ起きる?
ピックアップ

黒点活動の周期性の発見

 

前回のコラムで、「マウンダー極小期」と呼ばれる太陽の黒点(太陽の表面を観測した時に黒い点のように見える部分のこと)がほとんど出現しない時期が地球にはあったことに触れました。

 

この、黒点が極めて少なかったマウンダー極小期が18世紀の初めに終わると、黒点についての理解は大きく進み始めます。

 

デンマークの天文学者クリスティアン・ホレボーは、1776年に黒点の増減が周期的である可能性を初めて指摘します。しかし、その詳細にまで踏み込むことはできませんでした。

 

現在、11年周期と呼ばれている黒点の増減を見出したのは、ドイツのアマチュア天文学者(もともと薬剤師)ハインリッヒ・シュワーベです。

 

彼は1826~1843年のデータをもとに、現代のグラフに直すと図のようになる統計結果を得て、およそ10年周期で黒点は増減していると1844年に発表しました。

 

シュワーベが発表した黒点数の増減(折れ線グラフ)と、各年の観測日数(棒グラフ)。(Schwabe,H.1844,Astronomische Nachrichten,21,223をもとに作図)

 

実は、シュワーベはもともと黒点の研究をしようとしていたわけではなく、水星より内側を回っている惑星を見つけようとしていました。このような太陽に近いところを回っている惑星は、他の惑星のように太陽が沈んでいる時間に空に光っているのを見つけるのは困難です。そこで、惑星が太陽面を通過するところをとらえようとしたのです。

 

実際、地球より内側を回っている惑星である水星と金星は、太陽面上を通過することがあります。今後、水星は2019年、2032年……に太陽面通過を起こし、2032年には日本でも、日没近い時間に水星が太陽面上に入ってくるのが見えるはずです。金星の太陽面通過は、一番最近のものは2012年にすでに終わっています。これを見逃した方は残念ですが、次は2117年まで起こりません。

 

惑星が太陽面上を通過するとシルエットになって、黒点と似たような真っ黒で小さな円として見えます。

 

SOHO宇宙機搭載のMDI装置で撮影された、2006年11月6日の水星の日面通過。黒点が一列に並んでいるかのように見えるのが水星で、太陽面を通過する間の多数の画像を合成している。(SOHO〈ESA&NASA〉)

 

つまり、黒点の中からそこに紛れているかもしれない惑星を見出そうとしたので、彼は太陽黒点をたいへん詳細に記録しました。その結果、シュワーベは惑星を見つけることはできませんでしたが、黒点活動の周期性を発見したのです。

 

シュワーベは1825年に観測を始めて1867年まで続け、協力者によるものも含めて8000以上の黒点スケッチを残しています。

 

前述の図の年間観測日数を見ても、いかに熱心に観測を続けたのかが分かります。

 

見えてきた太陽と地磁気・オーロラの関係

 

シュワーベのこの発見は、いろいろな波及効果をもたらしました。

 

シュワーベの研究が発表された頃には、地磁気やオーロラの変動の研究も進んでいました。地磁気の存在は大昔から知られていて、しかも方位磁石で常に北の方向が分かるというように、変化しないものだと思われていました。実際には、地磁気はわずかな変動が1日周期で起こるとともに、時々、「磁気嵐」という急激な変動も起こっています。

 

答えを先に言ってしまうと、地磁気の短期的な変動には太陽が関係していて、特に磁気嵐は、太陽表面で起こる大規模な爆発で地球に飛んできたプラズマや磁場がその原因になっています。

 

一方、極地の夜空に見えるオーロラは、さらに古くから人類が知っていた現象であると思われます。

 

オーロラの様子(アメリカ空軍)

 

オーロラもいつも同じように起こっているわけではなく、激しいオーロラが多い時期もあればそうでない時期もあります。

 

オーロラは、太陽から飛んで来た粒子が地球磁場の中に入り込んで、北極・南極に降り注ぐことで起きる現象です。

 

このため、太陽面爆発で大量に粒子が飛んで来て磁気嵐が起きるような時には、激しいオーロラが起きます。

 

オーロラは、異様というか華麗というか、地球に奇観をもたらすものです。その様子から凶兆として恐れられることはあっても、手の届かない空の上で起こっている現象なので、気象現象とは違って実生活に影響するというものではありませんでした。

 

オーロラと太陽の関係は、1733年という早い時期に、フランスの博物学者ジャン=ジャック・ドルトゥス・ドゥ・メランが指摘しています。

 

ドゥ・メランは今日、体内時計といわれているものを発見したことで有名ですが、多才な科学者で、オーロラについての世界初と思われる研究書を出しています。その中で、太陽黒点の出現とオーロラの発生の関係を指摘し、オーロラの原因は太陽と関係があるという説を唱えました。

 

また、地磁気とオーロラの間に、オーロラ活動が活溌になる時には地磁気の変動も大きくなるという関係があることを、1741年にスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス(温度目盛りの摂氏を考案した人物)が助手のオロフ・ヨルテルとともに発表します。

 

さらにはドイツの博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトは、世界各地の地磁気を測定するとともに、1806年にオーロラ発生と方位磁針の狂いに関連があることを見出します。こうした中で地磁気の強さの継続的な測定が始まるとともに、磁気嵐の頻度には約10年の周期があることも分かってきました。

 

このように地磁気についての知識・データが蓄積されていく中で、シュワーベの研究を知ったイギリスの地球物理学者エドワード・サビーンほか何人もの研究者が、時期嵐の約10年周期の増減と黒点の増減が一致して起こっていることに気がつきます。

 

ここにきて初めて、太陽の11年周期と地磁気の変動に結びつきがあるかもしれないということが分かったのです。

 

※本稿は、花岡庸一郎『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

関連記事

この記事の書籍

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

花岡庸一郎(はなおかよういちろう)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

花岡庸一郎(はなおかよういちろう)