あなたの会社にも、古臭い企業に特有の「PL脳」が蔓延してませんか?
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ryomiyagi

2020/03/13

 

外部環境が激しく変わり、プロダクトやサービスのライフサイクルがどんどん短命になる現代では、より早く、より多く新たなビジネスを生み出す組織・人材が必要とされる。イノベーションとは何か? そして継続的に新規事業を創出する企業に共通する「科学」とは。

 

※本稿は、田所雅之『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■「1階建て組織」を蝕んでいく「PL脳」の呪縛

 

「伝統的な会社で働くことは魅力的だが、誰も“古臭い会社”で働きたくない」

 

世界最大の総合電機メーカーGEの前CEOだったジェフ・イメルトの言葉だ。19世紀後半にトーマス・エジソンによって設立された同社は、100年以上の歴史を持っている。

 

しかし、それだけの伝統を持つということは、ただちに企業が「古臭い」ということを意味しはしない。ジェフ・イメルトは、伝統的な企業でありながら、同時に、先進的な企業でもあることは可能だと考えているわけである。

 

では、「古臭い企業」とは何だろうか? いろいろな観点から特徴づけが可能だが、たとえば、次のような点が挙げられる。みなさんの会社は、いくつくらい当てはまるだろうか?

 

・組織が部署ごとにタコツボ化している
・思考が短期的、四半期単位でしか見えていない
・既存カテゴリーでのシェア獲得・今期のPLだけが評価基準
・失敗を避けることに重きが置かれている
・マネジャーの仕事は目標達成に向けた進捗管理
・参入障壁をつくり、ベンダーロックインを目指す
・既存市場の攻略(Product Current Market Fit)を前提にした持続的イノベーション

 

古臭い組織にこうした特徴が見られる究極的な要因は、組織が「1階建て」だという点にある。これはつまり、単層構造をした組織のなかに、複数の事業部を並列させていることを意味する。

 

経営視点で見た場合、このような組織は管理がしやすく、きわめて合理的にできている。事業部ごとの業績を評価する際も、PL(Profit & Loss:損益)さえ見れば、ひと目で「うまくいっている/いない」が判断できるし、株主に対しても進捗説明がしやすい。

 

その結果、組織で働く人たちは「自分たちの部署の短期目標を達成すること」だけにフォーカスするようになる。これが「タコツボ化」と言われる現象である。社内に無数に埋もれているであろうイノベーションの種を発掘する「社内リソースの明確化」というプロセスが必要なのも、多くの企業でこのようなタコツボ化が進み、所属部署以外にどのような強みが眠っているのかが見えなくなるからである。

 

1階建て組織の弊害はそれだけではない。より深刻なのは、「今期/当期における売上の最大化&コストの最小化」だけが至上命令になり、絶対視されることだ。朝倉祐介氏は『ファイナンス思考』(ダイヤモンド社)のなかで、このような組織病理を「PL脳」と呼んでいる。

 

PL脳が蔓延している組織では、求められた予算を満たす実績数値をつくることに仕事のすべてが捧げられる。ひどいところでは、プラスマイナス1%以内の精度での予実管理が求められることもあるという。

 

不正会計が問題になった東芝では、このPL脳の成れの果てとも言うべき証拠がいくつも明るみに出ている。たとえば、パソコン事業の過去業績を洗い出してみると、不自然なことに、毎四半期末に営業利益が売上高を超えている。なんと彼らは自社PC「ダイナブック」をグループ内で販売することによって、見かけ上は四半期目標を「達成」した状態をつくっていたのだ。

 

■「で……最終的にどれくらい儲かるの?」

 

このような組織においては、予算達成を邪魔するリスク要因を徹底的に排除し、部署に割り当てられた予算を着実に達成するマネジャーこそが、キープレイヤーだと見なされる。そういう「オペレーションモンスター」「予実管理の鬼」が、評価される風土になっている。

 

下図で言えば、HOW型人材こそが1階建て組織の主役なのである。マネジャーとして「優秀」だと評価されるのは、予算達成という仕事にフォーカスできる人である。目標数字は最初から決まっており、失敗は許されない。もし達成できなければ、マネジャー失格との烙印を押される。そういう世界である。

 

 

さて、このようにPLだけがKPI(重要業績評価指標)になっている組織のなかで、新規事業を立案・実行するのが、どれくらい難しいことかはおわかりいただけるだろうか?

 

与えられた予算だけに視線を固定され、ほかのものが何も見えなくなっているマネジャーのところに、あなたが新規事業案を持ち込んだとしても、彼/彼女はまず間違いなくそんなアイデアには見向きもしないだろう。そのアイデアが、あなた独自のWantに基づいたものであれば、なおさらだ。下手をすると、「遊んでいないで、今月の予算をどう埋めるかを考えろ!」と怒り出すかもしれない。

 

あるいは、もう少し寛容な性格のマネジャーだったとしても、おそらくこんな質問をぶつけてくるのではないだろうか?

 

「なるほど、面白そうな話ですね。それで……売上は? 費用は? 最終的にどれくらいの利益が見込めるのでしょう?」

 

年間100億円の予算を抱えているマネジャーにしてみれば、3年後に1億円を稼ぐ新規事業のアイデアを見ても、まったく心が動くことはないだろう。しかも、そもそも事業がうまくいくかどうかもわからないし、まったくの大損をする可能性すらある。手元のリソースは限られているのに、なぜそんなリスクを取ろうとするのかまったくわからない。いったい何を考えているんだ? 君は馬鹿なのか? そんな心の声をぐっと抑え込んで、「どれくらいの利益が見込めるのでしょう?」とそのマネジャーは質問を投げかけている場合が多い。

 

マネジャーはあえて足を引っ張ろうとしているわけではない。「すでに既存市場で成功したもの」に基づいて価値判断をしているだけである。

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田所 雅之

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