『セーラー服と機関銃』をはじめ、主演作を次々に大ヒットに導いた“映画女優”薬師丸ひろ子の時代(その2)
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ryomiyagi

2020/05/04

昭和の時代、多くの人を熱狂させた「アイドル映画」。
ここでは、そうした作品が盛んにつくられていた1960年代から80年代までの約30年間を「アイドル青春映画の時代」と呼びたい。
その時代に、10代、20代を過ごした人たちは、大なり小なりアイドルに関心を持ったに違いない。
「アイドル青春映画」を観に映画館へ通った方も、少なくないと思う。
ここでは、スクリーンを彩った昭和のアイドルと、その出演作を振り返ってみよう。

 

※本稿は、寺脇研『アイドル映画の時代』(知恵の森文庫)の一部を再編集したものです。

 

 

★名プロデューサー・角川春樹による新しい作り手の発掘

 

薬師丸ひろ子の角川春樹事務所からの独立後第1作は、柴田恭兵と共演の『野蛮人のように』(85年/監督・川島透)だった。

 

東映86年のお正月番組で、ヒットシリーズとなる『ビー・バップ・ハイスクール』(85年/監督・那須博之)と組んだために86年度第2位の興行収入を稼いだ。

 

しかし87年のお正月映画として公開された『紳士同盟』(86年/監督・那須博之)は興行的に失敗し、薬師丸のアイドルとしての圧倒的なまでの神通力は衰えた感があった。

 

それ以降は一枚看板のアイドルとしてではないものの、それでも着実に女優としての存在を示し続けている。

 

『ダウンタウン・ヒーローズ』(88/監督・山田洋次)で山田洋次作品に登場し、『病院へ行こう』(90年/監督・滝田洋二郎)ではコメディに挑むなど役の幅を広げていった。近年では、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ(05〜12年/監督・山崎貴)のお母さん役が知られている。

 

それでもファンは、永遠に『翔んだカップル』『セーラー服と機関銃』の女子高生姿が忘れられないのだろう。実際作品の出来栄えという点でも、薬師丸ひろ子のアイドル青春映画は常にクオリティの高さを誇った。

 

角川春樹プロデューサーの大胆な起用により、『セーラー服と機関銃』で相米慎二、『探偵物語』で根岸吉太郎、『Wの悲劇』で澤井信一郎と、80年代初めに青春映画を引っ提げてさっそうと登場した新しい才能を発揮する監督の手に委ねられた彼女は、さまざまな形で光る機会を得たのである。

 

80年の『翔んだカップル』がデビュー作になる48年生まれの相米、ロマンポルノから一躍ATG『遠雷』(81年/監督・根岸吉太郎)で脚光を浴びた50年生まれの根岸、38年生まれで40代での遅咲きながら『野菊の墓』( 81 年/監督・澤井信一郎)で鮮烈なデビューを飾った澤井を人気絶頂アイドル女優主演の切り札興行に起用した角川の才覚あってこそ、薬師丸の多様な魅力が展開された。

 

自主製作の『の・ようなもの』(81年/監督・森田芳光)で彗星のように現れた50年生まれの森田に『メイン・テーマ』を撮らせたのを含め、旬の監督を見出して真っ盛りのアイドルと組ませる先取り感覚が卓越していた。

 

監督だけではない。

 

『セーラー服と機関銃』田中陽造、『Wの悲劇』荒井晴彦という脚本家の起用も同様だ。

 

田中は『裏切りの季節』(66年/監督・大和屋竺)で弱冠27歳でのデビュー以来、ロマンポルノを中心に活躍し、『ツィゴイネルワイゼン』(80)で異才監督として知られる鈴木清順と組み、独特の世界を構築してキネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得したこの作品で毎日映画コンクール脚本賞を受賞したばかり。

 

一方の荒井はロマンポルノでデビューし、ATGの『遠雷』で評価された。いずれもアイドル青春映画とはおよそ無縁と思われていた作家である。

 

事実、相米、根岸、澤井、森田はその後も幾多の秀作を送り出し、日本映画を支える監督となった。荒井も『Wの悲劇』でキネマ旬報ベスト・テン、毎日映画コンクールの脚本賞2冠を得て大脚本家への道を歩み始める。

 

それは角川の目利きの確かさの「証明」だ。また、自社のドル箱作家・夏樹静子の原作を遠慮会釈なく改変させた『Wの悲劇』をはじめ、脚本家や監督の自由を尊重する太っ腹ぶりもツボに嵌った。

 

★恋愛とコンゲームの魅力が詰まった『紳士同盟』

 

薬師丸主演作の品質の高さは、アイドル時代最後の主演作『紳士同盟』(86年/監督・那須博之/脚本・丸山昇一)においても持続されている。

 

角川プロデューサーと袂を分かった後ではあるが、ここで組んだ監督も、「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズでいっぺんに売れっ子となったロマンポルノ出身で52年生まれの那須博之であり、脚本は『翔んだカップル』の丸山昇一だった。

 

薬師丸演じる人を信じやすい女子大生が二度も詐欺に遭って金に窮し、怪しげな大人たちと組んで自身が詐欺集団の一員になろうとする。

 

ヒロインである彼女の役目は、富豪の令息(時任三郎)を誘惑し陥れる大がかりな仕掛けの中で彼の心を掴むことだ。欺したつもりが欺され……。転々とする話の中で、ヒロインと、「令息」とは偽りで、実は……の青年とは本当に心惹かれ合っていく。

 

興行的にヒットこそしなかったものの、アイドル映画特有のわくわくする気分を感じさせてくれるのは変わらない。

 

『俺っちのウェディング』(83年/監督・根岸吉太郎/脚本・丸山昇一)で映画に颯爽と主演デビューし、テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』で人気を集めた時任と薬師丸の周囲を小林桂樹、財津一郎、石橋蓮司、伊武雅刀などの脇役陣が固めて華やかに詐欺ばなしを展開した。

 

わたしも楽しませてもらった観客のひとりで、この年の『キネマ旬報』ベスト・テン2位に推している。

 

アイドル薬師丸ひろ子の繰り広げた世界は、80年代前半から中盤に登場した新しい映画作家たちとの協働により、ひとつの独特なアイドル映画時代を形成したと言えよう。(この項おわり)

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