悪は別の悪を遠ざける『断罪 悪は夏の底に』著者新刊エッセイ 石川智健
ピックアップ

BW_machida

2020/08/04

僕は映画やドラマを観ることが大好きで、複数の動画配信サービスを契約している。基本的には多種多様なジャンルに手を伸ばすが、その中でもノンフィクション系の話や、実話を題材にしたフィクション作品を好んで観ることが多く、最近、悪人のドキュメンタリーばかり観ていることに気付いて驚いた。殺人鬼、爆弾魔、麻薬王……ラインナップは実に豊富だ。同じような人物を扱った類似作品も多くある。つまり、こういったものを視聴者が求めているのだ。

 

彼らがどうして、どんな悪さをしたのかを知りたいがために観る人もいるだろう。しかし、中には、彼らに好奇心を覚え、魅了され、足跡を辿ろうと考えた人も少なくないはずだ。

 

悪を憎む感情は誰しも持ち合わせている。しかし同時に、人は悪に惹かれる。

 

悪という存在は、不思議なものだ。

 

絶対悪や絶対正義など存在しないことが分かりきった世界で、人は悪を断罪しろと声高に叫ぶ。そのとき、たまたま悪と認定された悪を、絶対悪だと糾弾する。

 

ただ、悪には別の悪を遠ざけるという性質がある。誰かにとっての悪を、別の悪が退治したのなら、後者の悪は誰かにとっては正義の味方なのだ。

 

『断罪 悪は夏の底に』には、悪人がたくさん登場する。本当に、悪人ばかり。しかし、彼らを悪人だと思わない方もいるかもしれない。

 

悪は、実に曖昧で相対的なもの。ゆえに、確固たる悪の定義を持つ人は少ないだろう。

 

また、この作品では、さまざまな人体実験が登場する。人の魂の重さはどれくらいか。首と胴体を切り離して生きることはできるのか、などなど。実際に、これらを検証した実験は存在し、この物語の一つの柱にもなっている。

 

好奇心をかき立てられた方は、是非ご一読を。

 

『断罪 悪は夏の底に』
石川智健

 

【あらすじ】
稲城検事の命で、警視庁の青山陽介が調査に向かった武蔵野東署では、行方不明者が続いている。美しき検案医・夏目塔子が関係するのか。青山は特異な能力を持つ同級生の小鳥冬馬に協力させ、真相を追う……。悪とは、正義とは何かを問う異色ミステリー。

 

【PROFILE】
いしかわ・ともたけ 1985年、神奈川県生まれ。2011年、『グレイメン』で第2回ゴールデン・エレファント賞大賞を受賞。’12年に同作品が日米韓で刊行、作家デビュー。現在は医療系企業に勤めながら、執筆活動に励む。

小説宝石

小説宝石 最新刊
伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本が好き!」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。
【定期購読のお申し込みは↓】
http://kobunsha-shop.com/shop/item_detail?category_id=102942&item_id=357939
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を