「奨学金を借りている人とはつきあってはいけない」と言う母親…交際と老後が一直線上にある現代日本人の付き合い方
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ryomiyagi

2020/10/23

現在の日本の少子化対策がほとんど失敗と言っていい状況にある背景には、欧米諸国の政策をモデルにしたことで、「日本固有の価値意識」を見逃してしまった点が挙げられる。“結婚はいずれ皆するもの”? “愛の力があればどんなことも乗り越えられる”? 何れも「No」と答える、今の若者の恋愛に対する価値観とは。

 

※本稿は、山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

 

「生涯にわたる生活設計」+「リスク回避意識」

 

結婚と子育てを考える場合、欧米では考慮に入れる必要はないが、現代日本社会では絶対に外せない、特有の価値意識がある。

 

その1つが、将来の生活設計に関するリスク回避の意識である。

 

現代日本社会では、結婚、出産に関して「生涯にわたる生活設計」を考える人が多い。そして、生活設計上のリスクを最小限にするという、つまり、リスク回避を最優先するという価値観が強い。

 

その2つの要素が組み合わさって、今の日本の社会状況の中で、若者が結婚や出産を控える大きな要因になっている。

 

欧米では、日本に比べ、生涯の生活設計をしても無駄だと考える人、そして、生活においてリスクをとる人が多いことが、同棲、結婚、出産を増やしているのだと思えてくる。

 

歌のタイトルではないが、「ケセラセラ」、将来はなんとかなる、考えても仕方がない、と思っている人が日本人に比べ多い(たとえば、仕事においても、解雇されやすく、同時に、再就職もしやすいのが欧米社会である)。

 

日本人がこうした傾向にある大きな理由の1つは、日本社会が、戦後75年にわたって、社会的安定を享受できていたということが大きい。

 

交際する前に、子育てから老後までを見据える日本女性

 

まず、「生涯にわたる生活設計」という視点を見てみよう。

 

教育学者の小山静子京大教授によると、日本では、「出産」と「子育て」がセットになっていると言われる(小山静子・小玉亮子共編『子どもと教育』日本経済評論社、2018年)。

 

子育てを見据えなければ、出産を決断できない、つまりは、子どもを理想的な環境で育て上げる条件が整わなければ、そもそも出産を控えるという傾向を指摘したものである。

 

そして、近年は、「男女交際」と「結婚」「教育費」そして「老後の生活」も、一連の流れの中に加えなければならない。

 

2010年に行なった内閣府の調査で、未婚女性が結婚したい理由の中で上位に入ったのが、「老後に1人でいたくない」というものであった(下表)。

 

資料19『未婚者の「結婚したい理由」』

 

つまり、結婚して子どもを育てれば、自分が高齢になったときに子どもがいて寂しくないという深謀遠慮が働いているからだと推察される。未婚の時点から、老後の生活まで見据える女性が多いというべきか。その一方、男性では、この選択肢の回答率は、女性に比べ低いというのも特徴的である。

 

そして、女子学生が「奨学金を借りている人とつきあってはいけない」と母親に言われたという例があるように、「男女交際」を開始しようとするときでさえも、将来の結婚生活、子育て生活を見据えた視点で、するかしないかの判断をしようとしている。

 

つまり、好き嫌いという恋愛感情だけでつきあうのではなく、当人と交際し結婚したら将来どのような生活が描けるかという視点を持って判断するのである。

 

現代の日本人の多くは、将来にわたって中流生活を維持することを至上命題にしている。そして、将来にわたって中流生活を送れなくなるリスクを避けようとする。

 

日本人にとっては、生活設計において、「男女交際」「結婚」「出産」「子育て」「子の教育」そして、「子育て後の老後生活」の問題は、ばらばらにあるのではなく、相互に密接な関係を持ったものとして意識されている。

 

その傾向は、特に女性において強く、また、未婚女性の親において強いのではないかと推察される。いまだ結婚にあたって、娘の将来の経済生活を一生安泰にできる経済力があるかどうかを気にかけるのである。

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山田 昌弘

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