BW_machida
2020/11/02
BW_machida
2020/11/02
高度成長期と言われた右肩上がりの昭和40年代から半世紀、その間、バブル経済は破綻し、リーマンショックに中国の台頭と、今や日本経済は下降期に入っているような観すらある。加えてのコロナ危機。TVニュースでは「コロナ倒産」と言っているが、果たしてそうだろうか? 確かに、新型コロナウィルスの流行以降の景気衰退は目を覆うばかりだが、その前から経営不振が常態化していた企業も少なからずあるはずだ。
衰退の一途をたどる日本経済を挽回するには、何よりもまず生産者人口の確保こそが必須である。しかし、その手段は残されているのだろうか。
先ごろ出版された『失敗しない定年延長「残念なシニア」をつくらないために』(光文社新書)によれば、そんな生産者人口の確保の最重要層こそが、まもなく定年を迎えようとするシニア世代だと言っている。
「少子化の進展と大卒価値の下落」
年齢別人員構成がそこまで高齢化していない企業にとっては、それほど重要な課題ではないと見る向きがあるかもしれません。本当にそう考えてしまっていいのか……(中略)
平成時代の18歳人口のピークは、平成4年の1992年で、この年がいわゆる第二次ベビーブームのど真ん中です。1992年には18歳が205万人もいました。そのうち、大学入学者は54万人であり、概ね4人に1人が大学に進学していたことになります(中略)
これが平成29年の2017年になりますと、18歳人口が120万人にまで減少しています。1992年から四半世紀の25年間で6割以下になってしまったということです。また、18歳人口がこれだけ減少している一方で、大学入学者が63万人いることも注目に値します。実に、2人に1人以上が大学に進学していることになります。
なるほど、それなりの受験戦争を経て目出度く大学進学を果たした彼らを貶めるつもりはないが、単純に数字的な割合論からすると、大卒就職者の劣化が取りざたされるのも仕方が無いように思う。と同時に、これほどの大学進学率の上昇は、そのまま高卒就職者数の激減を意味しており、企業の高齢化を促進する一因になっているのは間違いのないところだろう。
残念ながら、各年の18歳人口は100万人を割り込むようになります。厚生労働省実施の人口動態統計によると、2019年の出生数は90万人を切っており、当初の想定以上に少子化が進展していると考えられます。
政府は、この深刻な少子化社会を乗り越えるべく、女性や外国人に加えて、シニアを人材確保の具体的な対象プールとして法案の整備を急いでいる。
そこで、それぞれの人材プールを検討していきます。まずは女性人材から見ていきましょう。結論から申し上げますと、女性活躍推進だけで生産年齢人口の減少を量的な観点からカバーすることは困難です。(中略)
非正規雇用を含んだ数字ではありますが、日本における女性の就業率はフランス、スペイン、イタリアなどのラテン系ヨーロッパ諸国や米国を上回っています。
男女雇用機会均等法が施行されてなお、女性就業者の多くはパートなどの非正規雇用が大半を占めているのが現実である。それを是正すべく、女性の正規雇用の推進こそは歓迎すべきだが、子育てや介護で一度離職した女性にとって、再就職での正規雇用は未だに狭き門である。
女性活躍に続いて、外国人雇用が日本企業にとって十分な人材確保策として機能し得るか、データに基づいて確認していきましょう(中略)
平成30年(2018年)時点の外国人労働者数は、約146万人です。このうち、日本政府が積極的な受け入れを表明している「専門的・技術的分野の外国人」は約28万人に止まります。この28万人には、医療・介護・教育・企業内転勤などの労働者も含まれていますので、日本の一般企業が人材確保のために求めている職種に限定しますと、その数はかなり絞られることになります。
そういえば、近頃のコンビニは外国人スタッフの姿をよく見るようになった。中には、日本人スタッフの姿を全く見ることの無い店舗すらある。
しかし本書は、今後も増加するであろう外国人労働者をもってしても、日本の生産者人口の減少をカバーするのは難しいという。
もちろん、今後の在留資格の緩和によって、外国人労働者の急増があり得なくもないでしょう。しかし、私はそれも期待薄だと考えています。なぜなら諸外国のホワイトカラーにとって、日本は働くのに魅力的な国ではないからです。
本書で紹介されている、スイスのビジネススクールであるIMDが調査した、国際労働市場における国別魅力ランキングによれば、日本の魅力度は全世界で28位。地域をアジア・オセアニアに絞ってもなお7位と、とても第一志望として見てもらえる国ではないようだ。
一般的な日本人は、在留資格の要件を日本が緩和すれば、諸外国から大挙して移民が押し寄せてくるようなイメージを持つのではないでしょうか。しかし、日本が積極的に受け入れていきたい専門的・技術的分野の外国人限って言えば、そういったイメージは幻想なのかもしれません。
中国の超大国化や、インド・ブラジルの台頭に見るように、21世紀の世界経済は多極化している。にもかかわらず、今もって前世紀の概念から脱却できずにいる日本が、外国人の目に魅力的な就職先に見えないのは当然かもしれない。
年々減少する生産者人口の確保の手段として、女性や外国人が期待できないとするならば、残る手段はシニアとなっていくのは自明の理であろう。
ハイスペックの外国人労働者が悩まされる日本独自の企業文化や、女性の多くが疑問を持つ古い経営理念までをも十分に理解し、実質的な就労経験も豊富なシニアこそが、迫りくる超少子化社会の「黄金世代」となり得るのかもしれない。
しかし、そんなことで自らの高齢化を慰めている場合ではない。
先に述べたコンビニで働く外国人スタッフが、品出しもちろんのこと、劇場や旅行チケットから公共料金の支払い、宅急便の受付など、日本人ですら苦労する多業務をそつなくこなす姿にこそ学ぶべきところは多いはずだ。ましてや、世界で最も難解とすら言われる日本語を習得した上である。
PCを駆使しての「リモート業務は向いてない……」などと弱音や言い訳を口にしている場合ではない。漠然とした不安に苛まれていた昨日の自分に別れを告げ、「今一度、勝負だ!」と自分にエールを送る。
文/森健次
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