BW_machida
2020/11/25
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2020/11/25
ヘロドトスの『歴史』によれば、アケメネス朝ペルシア帝国の始祖キュロス二世が命を落とした戦場は、アラクセス河のほとり、それもマッサゲタイ領側であったとされています。
最初にこの話を読んだときから、私はずっとある疑問を抱えてきました。三つの帝国を滅亡させ、オリエントの大小の王国と戦い、勝利してきたキュロス二世が、なぜわざわざ河を渡り、自らに不利な『背水の陣』で決戦に挑んだのか。
この戦場は、戦争を仕掛けられた側の、マッサゲタイ女王トミュリスによって提案されました。
「大王よ、橋を造らずとも渡河できる地にて決戦といこう。河を渡る汝らを我らが迎え撃つもよし、我らが河を渡って汝らを攻めるもよし」
キュロスはこの申し出に応じて河を渡りました。
紀元前五五〇年、辺境の小王国ペルシアから身をおこしたキュロスは、周囲の強国メディア、リュディア、新バビロニアを次々に征服し、東はインダス河から、西はトルコ、エジプト、エーゲ海沿岸へと当時の史上最大の版図を誇り、紀元前三三〇年にマケドニアのアレキサンダー大王に征服されるまで、二二〇年間続くペルシア帝国の礎(いしずえ)を築きました。
そのキュロスを戦場で討ち果たし、マッサゲタイ遊牧王国(現在のトルクメニスタン)を守り抜いた女王トミュリスについては、夫に先立たれ息子がひとりいたことしかわかってません。ひとりの女性が、強者が支配する騎馬民族の世界で屈強の戦士たちを従え、どのようにして草原の女王として推戴されるようになったのか、想像をかきたてられます。
『マッサゲタイの戦女王』は、私が抱き続けた疑問に自ら答えつつ織り上げた、女王であり戦士でもあり、そして母でもあったトミュリスの物語です。
『マッサゲタイの戦女王』
篠原悠希/著
【あらすじ】
沼沢ゲタイの氏族長の一族に生まれ、すべてのゲタイを束ねるマッサゲタイ国王の第十一王妃となった少女・タハーミラィ(トミュリス)。生まれながらの碧眼を忌まれてきた彼女が、広大なる世界に目を向けはじめるー。悠久のロマン溢れる一大叙事詩!
【PROFILE】
しのはら・ゆうき 1966年、島根県生まれ。2013年、『天涯の楽土』で第4回野性時代フロンティア文学賞を受賞。近著は『親王殿下のパティシエール3 紫禁城のフランス人』。
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