人生はまだまだ終わらない!|内館牧子さん最新刊『今度生まれたら』
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ryomiyagi

2021/02/13

 

シニア世代の人生をリアルに描く長編小説が大ヒットしている脚本家の内館牧子さん。新作は「ある記事に“内館牧子さん(70)”とあり“70歳ってお年寄り!”と衝撃を受けたのがきっかけ」だそう。主人公に共感したり身につまされたりしながら、最後の1行まで堪能できます。

 

「やりたいことはいくつからでもできる」という風潮には腹が立っていて(笑)

 

今度生まれたら
講談社

 

 人気脚本家の内館牧子さんが定年後のエリート男性の悲哀を描いた『終わった人』は舘ひろし主演で’18年に映画化され、老いを受け止める78歳の女性を描いた『すぐ死ぬんだから』は’20年に三田佳子主演でドラマ化され、いずれも大ヒットしました。そして、このたび、待望の第3作『今度生まれたら』が誕生。内館さんは作品誕生のきっかけについて語ります。

 

「同世代の女友達と集まるでしょ? すると子どもも孫もいて、夫も大事にしていて幸せに暮らしているのに“今度生まれたら私は今の亭主とは結婚しない”“私は宝塚に行く”“料理学校に行ってフランスでレストランを開く”なんて言うんです(笑)。そういう言葉は70歳という年齢が言わせているのではと考えました。50代はすごく若いし60代にも明日がある。80歳になると先が見えて腹もくくれる。でも70歳はなんだか中途半端なんです。日々のやり直しはできても、人生や仕事をゼロからやり直すのは難しい年齢です。それで“今度生まれたら”になるんだと思うんですね。

 

 数年前、ある雑誌のインタビュー記事に“内館牧子さん(70)”と書かれたこともきっかけになりました。“(70)ってすごいお年寄りじゃないの!”と衝撃を受けました。それで“今度生まれたら”と考える70歳の女性を主人公にした小説を書きたいと思いました」

 

 物語は、70歳の夏江が夫の寝顔を見ながら「今度生まれたら、この人とは結婚しない」とつぶやくシーンから始まります。夫は大学時代にワンゲルでならした元エリートサラリーマン。ところが退職後は「蟻んこクラブ」という地元のシルバー向けの歩く会にいそいそと通う、何事にもお金をかけたくないケチ臭い男に変貌しました。夏江は子どものころから「女の幸せは結婚」と信じ、進学も就職もすべてそこが基準。夫も「この男なら」と社内でロックオンして落としたほどです。優秀な息子2人に恵まれ、孫も誕生し、古希を迎えてあとは夫と豊かに穏やかに生きていく……はずでしたが、自分の人生は本当にこれでよかったのかと逡巡し始めます。ある日、昔振った元同僚が世界的な園芸家になっていたことを知り……。

 

「よく“やりたいことがあるなら、いくつからでもできる”というけど、何いってんだといつも腹が立っていました。70の私が今からボルダリングができるかって(笑)。私は54歳で東北大大学院に入り必死で勉強して修士号を取り、博士号も取りたいと思っていたけれど60代が忙しくて70歳になってしまった。やる気は今でもありますが頭がついていかないのよね(笑)」

 

 腹の中ではいろいろ考えていても忖度して生きてきた夏江。ですが、ある日、同い年の女弁護士の講演会で綺麗事ばかり聞かされ怒りが炸裂。ああ言えばこう言う夏江の攻撃は内館ワールド全開です。

 

「70歳には70歳なりの方法がある。私はこれまで生きてきた過程で得た知識や技術を使って社会にご恩返しをする番だと思っています。今まで大事にしてきたことを磨くことも必要でしょう。新しいことを一からやるのは違うだろうと思っているだけです(笑)」

 

 身につまされるリアルなセリフや場面が満載で首肯したり苦笑したり唸ったりしながら一気に読了。読み手の年齢を問わず、生きるヒントをくれる巧みな物語です。読後すっきりすること間違いなし!

 

PROFILE
うちだて・まきこ◎’48年秋田市生まれ。’88年に脚本家デビュー。朝ドラ『ひらり』、大河ドラマ『毛利元就』などを手掛ける。’06年には東北大学大学院文学研究科で修士号を取得。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、東北大学相撲部総監督など要職を歴任。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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