ビジネスに「徳」が求められる今こそ読むべき 渋沢栄一の『論語と算盤』
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ryomiyagi

2021/03/15

 

「日本経済の父」と呼ばれ、その功績から1万円札の次の顔に内定している渋沢栄一。2021年度大河ドラマの主役にも選ばれたことで今、その生涯に注目が集まっている。幕末から近代化へ向かう目まぐるしい時代を生き抜いた男の根幹にあった思想とはいかなるものか?『渋沢栄一に学ぶ大転換期の乗り越え方』(光文社新書)は、彼の残した名著「論語と算盤」と論語そのものを題材に、現代の生き方やビジネスのあり方を考える。

 

SNS時代には企業の「徳」がなければ生き残れない

 

今、シリコンバレーのCEOたちは「徳」を学ぼうとしている。
本書の著者で、東洋思想をベースにしたビジネスマインドや企業経営、企業戦略を伝える事業を行っている田口佳史氏のもとには「virtueが必要だ!」と言う経営者たちがやってくる。

 

「virtue」とは「徳」のことです。
とりわけシリコンバレーのCEOたちは「virtueの大切さ」を強調します。企業や経営者の「徳」こそが、ビジネスの成否を分ける大きな要因となる。たしかに、その傾向はどんどん強まっています。

 

一体なぜか。現代ではSNSは誰もが使う身近なコミュニケーションツールだ。一国の代表までもそのツールを使い発信をしている。彼らの発言や振る舞いは、一気に世界中に拡散されあらゆる人の目に触れることとなる。企業の経営者たちにとっても同じことだ。地球環境に対する考え方、企業の在り方や精神、顧客やユーザーに対する心配りなど、トップにいる人間のあらゆる側面は注目される。

 

そんなガラス張りで、一気に情報が伝達する世の中にあって、人として、あるいは企業としての「徳」がなければ、瞬く間にバッシングされ、炎上し、不買運動が広がり、経営自体に大きなダメージを与えます。

 

つまり、「徳」があるか、ないかが企業の生き残りに大きく関わるのが今の世の中なのだ。
渋沢栄一はそんな時代を予感していたかのように著書『論語と算盤』で「道徳とビジネス」の関係を書いている。

 

一言で言ってしまえば、論語とは「道徳」のこと。先に述べた「virtue(徳)」と言い換えてもいいでしょう。
一方の算盤とは「経済」あるいは「商売」や「ビジネス」のこと。すなわち渋沢は『論語と算盤』という著作のなかで「道徳とビジネス」について語ったのです。

 

渋沢栄一が語った「道徳とビジネス」の関係

 

『論語と算盤』は、そのタイトル通り孔子の『論語』から、算盤すなわちビジネスに生かすべき道理や道徳を読み取ることを勧めた書だ。その中で渋沢は、次のように述べる。

 

論語というものと、算盤というものがある。これは甚だ不釣り合いで、大変に懸隔したものであるけれども、私は不断にこの算盤は論語によってできている。論語はまた算盤によって本当の富が活動されるものである。ゆえに論語と算盤は、甚だ遠くして甚だ近いものであると始終論じておるのである。

 

ビジネスに対して道徳がどう関係するのか。そんなことを『論語』から学ぶよりもより実務的に役に立つスキルやノウハウを学ぶ方が良いと思うのが普通だろう。渋沢も、道徳とビジネスはかけ離れたものだと認めている。しかしそれでも、ビジネスは道理や道徳によって成り立つものであり、逆に道理や道徳もビジネスによって真価を表す、相互に関係したものだと言う。
それは、道理、道徳も、ビジネスもどちらも人間同士の関わり合いの中に存在するものだからだ。

 

渋沢は「ビジネスをやるからには、まず人間というものをちゃんと理解しなさい」と言いたいわけです。
ビジネスに直結する経営理論やマーケティング、金融工学、最新の組織論やイノベーション理論を学ぶのもいいでしょう。 
しかし「そもそも人間とはどういうものか」「人間関係とは、どのようにすればうまくいくのか」という原理・原則、もっと言えば道理を理解せずして商売をしても、決してうまくはいきません。だから、「人間を知らなきゃ、商売なんてできないよ」と渋沢は言うわけです。

 

道理なくして利益なし

 

約500ものスタートアップに関わった渋沢は、企業を立ち上げ経営していくにあたって大切なこととして次の四つを挙げている。

 

(1)道理正しい仕事か。
(2)時運に適しているか。
(3)己の分にふさわしいか。
(4)人の和を得ているか。

 

ここでも、真っ先に人の道理をビジネスにとって重要なものとして示している。
こうした渋沢の発言は、道理をまず第一に優先し自分の利益や富を追い求めることは重視していないようにも取れる。しかし、田口氏はそれは間違いだと指摘する。

 

論語をあっさりと読んでしまうと「仁義道徳が大切で、富を追い求めるなんていけないよ」と捉えられがちだが、それは「論語読み」のもっとも大きな誤解である、と渋沢は言います。

 

孔子は、「富貴の者に仁義王道の心あるものはないから、仁者となろうと心掛けるならば、富貴の念を捨てよ」という意味に説かれたかというに、論語二十篇を隈なく捜索しても、そんな意味のものは、一つも発見することはできない。

 

渋沢は、利益を追求すること自体は否定していないのだ。
例えば、ある商品を安く作るために原料費をできるだけ抑えて利益を最大化するのはビジネスの基本だ。だが大企業が強い立場を利用して下請けから原料を安く買い叩いていたらどうだろうか。一時的には利益は出ても、いづれ悪事がばれて炎上するかもしれないし、会社自体の発展にはつながらないだろう。つまり、本当の利益になるとは言えない。だからこそ、渋沢は道理を大事にして本当の意味での利益を作っていくことが重要だと説いているのだ。

 

今はネットの全盛時代。世界中の人々が直接つながている世の中です。そんな時代に、人として道理に合わないことをして、企業を持続させることなどできません。
だからこそ「商売」をするなら「ものの道理」を理解しよう。
論語(道理)を知らずして、算盤(ビジネス)はうまくいかない――。
そういうことを渋沢は説いています。

 

道理なくしてビジネスでの利益は得られない時代。今こそ渋沢栄一の『論語と算盤』から学ぶことは多くある。

 

文/藤沢緑彩

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