『ヘパイストスの侍女』著者新刊エッセイ 白木健嗣
ピックアップ

BW_machida

2022/04/05

魅力的なキャラクターとしての天才

 

作家を志したとき、魅力的なキャラクターを描きたい、という夢がありました。

 

もちろんミステリーであればトリックや伏線、ストーリー、舞台等、重要な要素はたくさんあるのですが、これらはキャラクターに魅力がなければ色あせてしまうと思っています。
「魅力」は「個性」と言いかえてよいかもしれません。「個性」とは、変な名前や、人と違う発言、奇行ばかりが目立つ変人設定ではなく、並外れた知識・知能と、それらを基にした言動だと考えています。天才はその最たる例です。

 

ミステリーにおける魅力的なキャラクターを考えたとき、頭に浮かぶのはいつも天才の存在でした。『御手洗潔シリーズ』の御手洗潔や、『探偵ガリレオシリーズ』の湯川学、森博嗣さんの作品に登場する真賀田四季など、天才はいつも読者を楽しませてくれます。

 

名探偵も天才の一種かもしれません。私は『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』で育った世代のため、どうしても彼らの存在を無視できません。しかしミステリーにおいて天才というのはもどかしい存在です。連続殺人は最後まで見逃す必要があるし、途中までは読者にバレないように推理する必要があるし、犯人はみんなの前で暴く必要があります。

 

魅力的なキャラクターを描こうと思ったとき、読者を唸らせるだけの天才性と、謎を終盤まで残しておくというお約束のバランスに悩み、試行錯誤した結果、人工知能に行き着きました。当初思い描いていた天才とはかなり違うところに着地してしまいました。
『ヘパイストスの侍女』はサイバー犯罪対策課の捜査官と捜査一課の刑事を主人公に据えたITミステリーですが、人工知能マリスが推理を披露する場面も描かれています。

 

人工知能は令和版の「安楽椅子探偵」になれるのではないかと思いますので、読者の皆様にもそのような観点でお楽しみいただけると嬉しいです。

 

『ヘパイストスの侍女』
白木健嗣/著

【あらすじ】
実用化目前の自動運転車が公道実験中に死亡事故を起こし、犯人から脅迫メールが届く。警視庁は人工知能マリスを使った世界初の捜査に乗り出すが……。最先端テクノロジー×濃密な企業小説×洗練の警察ミステリ!

 

白木健嗣(しらき・けんじ)
1989年、三重県四日市市生まれ。愛知淑徳大学文化創造学部卒業。日本マイクロソフト株式会社勤務。本作で第14回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞しデビュー。

小説宝石

小説宝石 最新刊
伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本が好き!」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。
【定期購読のお申し込みは↓】
http://kobunsha-shop.com/shop/item_detail?category_id=102942&item_id=357939
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を