日本ではめずらしい、両親の離婚を描いた甘くてほろ苦い絵本|メラニー・ウォルシュ『ママのうちとパパのうち』
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BW_machida

2022/04/15

 

「ママとパパは、もういっしょにすんでいない。だからわたしは、ピンクのドアのおうちでママとねことすごすときもあるし マンションのうえのかいのおうちでパパとすごすときもあるの。」

 

そんな書き出しからはじまる絵本の主人公は、素朴でかわいい、小さな女の子。女の子の両親は別々に暮らしている。おそらく、大人の事情、ってやつだ。

 

 

イギリスの作家でイラストレーターのメラニー・ウォルシュが描くのは、両親の離婚を扱った日本ではすこし珍しい物語。ママのうちとパパのうち、両方の家で過ごす時間が、しかけ絵本の仕組みで交互に語られていく。

 

 

女の子は、ときどきママの家で、ときどきパパの家で過ごしている。どちらも「わたし」のおうちだから、部屋もふたつある。鮮やかなピンク色のドアが目印のママの家にある「わたし」の部屋は、黄色い壁。虹模様のベッドカバーに、カラフルなガーランドも飾ってある。マンションに住むパパの家にある「わたし」の部屋は、花模様の壁紙だ。木製のベッドは赤色で、おもちゃもたくさんある。どちらの部屋も、明るくてとても居心地が良さそう。

 

 

「ママもパパも、しってるの。わたしがまっくらなへやでねるのがにがてだってこと。」

 

だからママの家の「わたし」の部屋には、パンダの明かりが置いてある。パパの家の「わたし」の部屋には、蝶々の明かりを選んだ。休日には、パパがキャンプに連れて行ってくれて、ママは牧場へ連れて行ってくれる。誕生日には、ケーキを作って、ボウリングへ出かけた。ふたつのうちで過ごす女の子の日常には、好きなものが二つずつ、喜びも楽しみも二つずつある。それでも、女の子が寂しい、と感じたとき。ここでも絵本に隠された仕掛けが、見事に女の子の不安を拭い去ってくれる。

 

 

絵本のテーマは繊細だが、女の子が周囲から愛情をたっぷりと注いでもらっているのが伝わってきた。ママとパパ、おばあちゃんやおじいちゃん、おじさんとおばさん、いとこたち、友だちにペット……と、女の子の世界には大好きな人がたくさんいる。ページいっぱいに、大きく描かれたイラストが女の子の喜びを表現しているみたいだ。

 

『ママのうちとパパのうち』
メラニー・ウォルシュ/著 おおはまちひろ/訳

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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