歳を重ねるのも悪くない――自分を肯定的に捉えることは人生を豊かにする|ジェーン・スー『きれいになりたい気がしてきた』
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BW_machida

2022/04/22

『きれいになりたい気がしてきた』
ジェーン・スー/著

まず、タイトルがいい。「きれいになりたい」のではなく、「きれいになりたい気がしてきた」という正直さがいい。いわゆる美容本にありがちな、美しさへの向上心が漲っていないところもいい。とはいえ、美を諦めたわけではない。著者が目指すのは「自分で自分を好きでいられるような、自分のためのきれい」である。

 

「私は美容家ではありません。美容マニアのように、新しいものを次から次へと試す好奇心もありません。むしろ、自分を自分好みに美しくすることへの照れや遠慮や罪悪感や、よくわからない後ろ向きな気持ちにずーっと引っ張られてきました。容姿に自信がなく、それ以外で自分を構成しようと躍起になっていました。」

 

「きれいになりたい」なんて身の丈を知らない欲深い想いを誰にも知られたくない、という赤裸々な言葉に共感する読者は多いのでは。妻や母であること、年齢や体型など人にはそれぞれの事情があって、みんなが少しずつ不満と不足を抱えて生きている。「どうせ生きるなら、好きな自分で生きていきたい」著者の美に対する自意識の葛藤は愉快だが、当人はいたって真剣だ。

 

世代を問わず生活感全体に「肩肘を張らない、抜け感とこなれ感」が求められる時代である。「二十年くらい前まで、大人の女をやるのはもっと簡単でした」の一文があるが、当時は服にも靴にもメイクにも、持っているだけで大人の女性を演出してくれるものというのがあったという。大人の女のコード(記号)があいまいになった、カジュアル全盛期。「抜け感とみずぼらし感は、いつだって背中合わせ」なのだと、しばし昨今のオシャレ事情への苦しみや辛みが語られるが、一方で苦労の末に習得したハイポニーテールが「いい感じ」と気づいて以来、「新しい自分が見つかって、私はとっても楽しい気分」と毎日をハイポニーテールで過ごすようになったとか。

 

「わかっていても失敗することはあって、そうしたときに頼りになるのが、自分に手を掛けてあげることだと思います。自分に好きな自分にはいろいろな構成要素があるけれど、精神の入れ物としての肉体が自分好みだと、とりあえずその場はしのげる。鏡を見て『うん、悪くない』と思えれば、自分が自分であることを、心底嫌悪するような状況に陥ることはありません。」

 

自分の顔や髪形としっかり向き合うこと。ファッションもヘアスタイルも、年齢を理由に頭ごなしに否定するのではなく、工夫をこらしてみる。自分を肯定的に捉えることが人生を豊かにしてくれるのだと気付かされる。幸せときれいになることとは繋がっているのだ。

 

それに、歳を重ねることは悪いことばかりではない。ひと昔前よりも、きれいのバリエーションが増えたことも女性の美を後押ししてくれている。中年という「お年頃」世代の美の楽しみ方、美との向き合い方をユーモア混じりに綴った本書は、元気だけでなく勇気まであたえてくれる一冊だ。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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