『闇の余白』著者新刊エッセイ 石川智健
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ryomiyagi

2022/05/12

小説は現実よりも奇なり、かも

 

ミステリー作家なので、新しい法律ができたらチェックするようにしている。法律は生物であり、どんどん変わっていく。二〇〇四年に成立した裁判員制度は、市民が裁判員として裁判に深く関わることになった制度で、多くの小説で取り上げられている。裁判に市民が参加するという点で問題提起の恰好の材料と言えるし、注目度も高いからだろう。

 
実は、その裁判員裁判制度と同じくらい注目されていたのが「捜査・公判協力型協議・合意制度」だ。日本版司法取引と称されている。司法取引は、ハリウッド映画などでお馴染みの、検察と取引をして、罪を軽くするというものだ。アメリカとはやや異なるが、日本でも二〇一八年に導入された。

 
しかし、日本版司法取引は、二〇二二年三月時点で三件しか適用されていない。検察側が冤罪を警戒して及び腰になっているという。しかも、取引をした人物は保護されない。アメリカには証人保護プログラムがあり、報復から守られるにもかかわらず、日本にはない。これでは取引は難しい。

 
検察の武器になるはずの司法取引は、すでに形骸化している。そして、現時点で日本版司法取引を中心に据えた小説は発表されていない。制約が多い上に、ミステリーの主力武器である“殺人事件”に使えないからだ。この制度を使って解決できるのは談合や詐欺、汚職といった組織的な財政経済犯罪、薬物銃器犯罪の一部に限られる。刺激的な物語が作りづらいし、制度の内容も複雑だ。

 
しかし、私は徹底的に起伏のある物語を意識し、作品を練り上げた。弁護士会の勉強会に潜入し(弁護士限定の勉強会だったはずだが、ふらりと入ったら受講できた)、弁護士にも取材し、制度内容を徹底的に確認した。

 
断言できるが、日本版司法取引を取り扱った長編小説は、この『闇の余白』だけである。現実で敬遠される制度に立ち向かい、小説の力を試したかったのだ。

 


『闇の余白』
石川智健/著

 

【あらすじ】
覚醒剤密輸現場で逮捕された暴力団員・雨夜。“いい刑事”にしか話さないと黙秘していたが、警視庁捜査一課の刑事・滝田に会ったとたん、自供を始める。そして雨夜は、覚醒剤密輸の逃亡犯と、ある事件の犯人を教えることを条件に不起訴にしろと要求するが……。

 

いしかわ・ともたけ
1985年、神奈川県生まれ。2012年『グレイメン』でデビュー。著書に「エウレカの確率」シリーズや『小鳥冬馬の心像』『断罪』『私はたゆたい、私はしずむ』など。

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