「熟年層はどこで恋に出会うのか」問題 ヒントはフランスにあり?
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フランス人は熟年になっても盛んに恋をしているが、一体、そうした出会いはどこにあるのだろう? 日本では同窓会などが考えられるが、フランスではそれもあまり耳にしない。 そこで、周りに聞いてみた。

【1】ナタリー(50代半ば 女性)の場合

 

子どもはもう35歳なので独立している。夫とは20年以上前に別れたものの、現在も親友として付き合いを続けている。数年前、20歳年下の彼氏と3年間同居したが「彼は子どもが欲しくて、若い彼女を見つけて去って行った」そうだ。

 

「シングルの生活は最高。でも、時々寂しくなることがあって、そういうときは一人でクラブへ行くの。一人で踊っていると、周りにいる20代後半から30代の男の子たちがお魚みたいに寄って来るんだ。私はその中から、一番可愛い子をお持ち帰りするの」と言う。

 

フランスの若い男性は「経験ある年上女性」に対する憧れが強く、女性が熟年であることは必ずしもデメリットではないらしい。

 

「でも、一つだけ気をつけているのは、一晩だけっていうこと。もう、二度と誰かと一緒に暮らすのは嫌だから」と話す彼女は、孤独と引き換えにしてでも、自分の時間と空間を大切にするため、シングルでの生活を守り抜くつもりらしい。

 

【2】ジョスリン(70代 女性)とパトリス(70代 男性)の場合

 

ブルターニュの小島に住んでいるジョスリンは、テレビ局の技術部門で定年まで勤め上げた。一人息子は40代半ばで、3人の孫がいる。

 

30年近くおひとりさま生活を満喫した末に、数年前から「このまま独居生活をして死ぬなんて絶対に嫌だ。この年でアクロバティックなセックスをしたいとは言わないけど、愛撫くらい交わす相手が欲しい」と言い出し、出会い系サイトに登録した。ちなみに、国立人口研究所(INED)が2016年2月に発表した「出会い系サイト・利用者は誰か? パートナーを見つけるのは誰か?」という統計の結果によると、熟年層は出会い系サイトにアクセスする数こそ少ないが、ゴールイン率がもっとも高い。

 

「見ず知らずの人とネットで出会うことは怖くないの?」とSNSに懐疑的な私に対して、彼女は言う。

 

「あら、そんなことないわよ。文章を読めば相手の知的レベルもある程度わかるし、結構嘘はつけないものよ。変な人と出会って困ったことになる前にフィルターを通せるのは、ネットならではのよいところよ」

 

彼女は出会い系サイトで知り合った4人と付き合った末、「自然と動物を大切にする人々、ベジタリアンや有機作物農家との出会いの場」といううたい文句の「愛と有機作物」という変わった名前の出会い系サイト(https://www.amours-bio.com/)で現在のパートナー、パトリスと出会った。

 

二人が急速に仲良くなったのは、2015年1月に起きたシャルリー・エブド襲撃事件のときだったという。パリで、イスラム教の預言者ムハンマドなどの風刺画を発表した「シャルリー・エブド」誌の編集部がアル・カイダ系のテロリストに襲撃され、表現の自由について国民の間で盛んに議論された時期だ。彼らも事件を機に表現の自由についてとことん話し合い、意気投合したそうだ。政治論議がある種“国技”ともいえるフランスらしい出会いだ。

 

現在、ジョスリンとパトリスは、お互いの住居は持ち続けながら、夏は海辺にあるジョスリンの家で、冬は都市部にあるパトリスの家で同居している。「いいなぁ」と羨ましがる私に、ジョスリンは「私はパートナーを探した。だから出会えたのよ。ボーっとして、出会いが上から落ちてくるのを待っていたわけではないのよ」と、自信たっぷりに返してきた。

 

【3】アニー(60代 女性)の場合

 

30代の子ども2人と、11歳の孫がいる。5年前、38年間ともに暮らした夫と別れた。
「一緒にいる理由がわからなくなったのよ。プレゼントをくれるといった心遣いも無くなったし、バカンスですごく良い雰囲気の夜も、酒を飲んで一人でいびきをかいて寝ちゃうし……。ただの同居人に成り下がるのは我慢できなかった」

 

その後、フェイスブックで再会した大学時代の同級生と付き合うようになった。相手は結婚していて4人の子どもがいる。住んでいる地方が違うので、月に1回、数日間だけパリで一緒に過ごす。

 

「相手は結婚しているんでしょう? 嫉妬したり、罪悪感を持ったりはしない?」と聞くと、こう言われた。

 

「罪悪感? 全然ないよ。彼と妻の関係と、彼と私の関係は別だもの。嫉妬しようがないわよ。今は、私の人生の中で一番幸せな時期。年をとってはじめて、罪悪感や義務感、慣習や世間の目から解放されて自由になれた。だから今こそ楽しまなきゃ!」

 

【4】ジョルジュ(65歳 男性)とサンドリン(60歳 女性)の場合

 

サンドリンは、娘が小学生だったときの担任教師ジョルジュと再会し、恋に落ちた。保守的な親の反対を押し切って30年間連れ添った夫と離婚したが、経済力のない夫と別れることは至難の業だったという。

 

「自腹を切ってアパートを一つ買って、出て行ってもらった。それが手切れ金みたいなもの」だそうだ。今はジョルジュと同居しているが、娘がジョルジュと口をきいてくれないことが悩みの種らしい。

 

1900年、フランス人の平均寿命は45歳だった。多くの女性が出産の際に亡くなり、カップルとしての平均寿命は15年だった。それが今では平均寿命が82歳。成人になってから死ぬまでに40年から60年もある。それなのにカップルの平均寿命はむしろ短くなって13年となった。一生で3回、4回と相手を変えることは当然ともいえる。カップルの関係が壊れることイコール人生の失敗ではない。早く立ち直って新しい相手、新しいカップルの形をみつける「恋愛力」が、いくつになっても求められるのだろう。

 

 

以上、『フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

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