インターネット、GPS、Siriやルンバまで?現代必須の技術の多くを生み出した、ある組織とは?
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あなたはSiriに頼んで設定してもらったアラームで目が覚める。テレビをつけてニュースを見ていると、最近はドローン撮影の映像が多いなあと気づく。リビングにいるルンバに掃除を命じる。そのあいだにネット対戦型のシューティングゲームを楽しもう。しばらくして、外出の用事を思い出し、グーグルマップを見ながら徒歩で出かける。自動運転車があれば楽なのに……。

 

ここに出てきた多くの技術の基礎は、実は米国のDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)の支援のもとに開発されたものだ。ちょっとテクノロジーに詳しい人なら、DARPAがインターネットや、GPSなどの技術を生んだ組織であることは知っているかもしれない。

 

国防や諜報を専門分野とするジャーナリストで、現在は米国Yahooニュースのワシントン支局長を務める敏腕ジャーナリストが書いた『DARPA秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』(原題The Imagineers of War)は、テクノロジーやイノベーションに関心のある人なら必読の書だ。

 

いまから約60年前の1957年、世界一の大国と自負していたアメリカに衝撃と恐怖を与えたのが、ソ連のスプートニク号打ち上げだ。このような技術的サプライズを防ぐべく、慌ててアメリカが設立したのがDARPAだ(当時はARPA)。当初は宇宙開発や核防衛などの研究を先導し、打ち上げた人工衛星から大統領がクリスマスメッセージを発信することに成功する(これを応用し、人工衛星から発せられた信号を追跡して現在位置を知るしくみが、のちのGPSとなる)。ところが、それ以上の成果を残せず、宇宙関連のプロジェクトはNASAへと引き継がれることになる。

 

やがて戦争の在り方は様変わりし、ベトナム戦争のようなゲリラ戦を制する方法を編み出すことがDARPAの課題の一つなる(米軍はもともとは現地の親米勢力を支援するだけのはずが、のちに直接的な戦闘にも関与することになる)。ここから生まれたのが、扱いの容易なM16ライフルや、ドローン(無人哨戒機・無人攻撃機)だ。

 

また、主に軍の指揮統制システムを改善するため、開発されたのがインターネット(当初はARPANET)だ。コンピュータの性能が上がると、多数が参加できる大規模な軍事シミュレーションなども可能となった。

 

イラク戦争・アフガン戦争では、DARPAの支援するiRobot社が開発した多目的作業用ロボットが実際に危険物撤去などに使われた。これで財務的基盤を築いた同社は、のちに掃除ロボット「ルンバ」をヒットさせることになる。また、DARPAがSRIインターナショナル社を支援して行った、現地語を理解するための言語研究・人工知能研究プログラムは(結局軍は関心を示さなかったが)、Siriという企業としてスピンオフされ、のちにアップルに買収された。

 

一方、DARPAの成果の陰には、無数の奇妙な試みや、馬鹿げた研究もあった。地球を覆うバリア(まったく現実的でなかった)、ユリ・ゲラーも参加した超能力研究などだ。また、ベトナムにおける「枯葉剤」撒布や、9.11後の国民監視によるプライバシー侵害のような負の遺産も残している。

 

昨今のDARPAの活動としては、自動車の自動運転コンテスト、人間の身体能力の拡張研究、ネットワークとビッグデータの応用などについて報じられることが多い。WIREDやengadgetなどテクノロジー系のサイトでDARPAを検索すると画期的でヤバそうな研究がいくらでも見つかるだろう(無論、表に出ない機密のプロジェクトも山ほどあるはずだ)。

 

しかし、DARPAはなぜ膨大な予算や、優秀な人材を調達できるのか? なぜDARPAは画期的な発明を手にできるのか? どんな人々がDARPAを運営してきたのか?――これらの答えはすべて『DARPA秘史』に明かされているが、コンサルタントや学者が望むようなシンプルな法則には落とし込めない。歴史とは甚だ複雑なものであり、まるごと飲み込む以外に、そこから何かを学ぶことは難しいのかもしれない。厚くて読み応えがあるが、21世紀世界の成り立ちを知るうえでは読まないわけにいかない一冊だ。

 

 

DARPAがボストン・ダイナミクス社などを支援して開発された、輸送用ロボット「ビッグドッグ」。これを小型化、家庭用にした「スポットミニ」は、バナナの皮で転倒する動画で有名だ。
(2007 DARPA Strategic Plan)

 

 

2007年DARPAアーバン・チャレンジのために開発された自動運転車。(wikipediaより)

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DARPA秘史

DARPA秘史世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇

シャロン・ワインバーガー/千葉敏生 訳

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