2019/03/06
藤代冥砂 写真家・作家
『アウトサイダーズ』グラフィック社
GESTALTEN、ジェフリー・ボウマン/編 樋田まほ/訳
大自然を旅して生きる、というサブタイトルから、デジタルガジェットを巧みに操って新たなライフスタイルの構築を試み、大自然の懐にてノマド生活を謳歌する現代のソローの姿を予想しつつ、この小さな百科事典みたいな本を開いた。
パラパラめくると、まず美しい写真たちが目を奪い、心を躍らせる。トレイル、ビーチ、雪山、荒野、川辺、自転車、キャンプ、山小屋、それらの写真たちを眺めているだけで、心が深呼吸し、早くも旅へと招き入れてくれる。
適切かどうかは別として、アウトドアブランドのパタゴニアの美麗なカタログを手にした時と同様の胸の高鳴りがある。そこからカタログ要素を抜いて、読み物、インタビュー、写真をボリュームアップした感じ、第一印象はそうだった。
アウトドア愛好家は、世界中に厚く散らばっているが、そのほとんどはパートタイムアウトドアマンであり、ウィークディは、定時の仕事に精を出し、週末やまとまった休暇を利用して大自然と戯れる。
だが、ここに登場する人々は、正真正銘のアウトドアマンたちであり、暮らしの大方の場面を大自然の中で持つことに成功している。当然経済的な収入も、起点が大自然になる。読み進めるとすぐに分かるのだが、この本は、「大自然を旅して生きる」ことに成功した人たちの事例集であり、その多くがアウトドアライフ系のベンチャービジネスマンである。
ハイキング、サーフィン、サイクリング、オン・ザ・ロード、スノー、ウォーターの章立てごとに、雑貨やギアなどのブランド紹介にもなっていて、その現場からの言葉が詰まったインタビューもとても参考になる。ブランド名を挙げると、poler,tentsile,山と道、biolite,orukayak,yeti,nordisk,niche,campa,neon,indoekなどである。
だが、一般人の目からしたら、そんな彼らはちょとずれた人々であり、そこまでの熱意をアウトドアライフに持てないと思う。家族とバンで旅しながら暮らしたり、極地でのサーフィン撮影を喜びとしたり、自転車でロンドンから上海まで旅したり。それらは、多くの人にとって、「やりすぎ」であろう。
しかし、このように現実離れした人々を中心に据えたこの本が、なおも私を魅了してやまない理由は、彼らはこちら側の人々と彼らの作り出す魅力的なプロダクツによって繋がりを放棄していない点であり、完全なる隠遁者とならずに現代を軽やかに生き抜くメソッド本としても読める喜びがある。
そもそも本は、読者に夢を与えるものでもあったはずだ。即戦力となる情報を求める横で、何歳になろうとも胸が高鳴る夢物語に浸りたいという願いがある。
本の中には、この願いを広げてくれる著名人の名言も散りばめられている。例えばアルバート・アインシュタインはこう言う。
「集団について行く者は、集団より先へはいけない。一人で歩く者は、気づけば誰も来たことのない場所に辿り着いている」
また、ロバート・ルイス・スティーヴンソンはこう言う。
「私はどこか行く所があって旅するのではない。ただ、行くために旅する。旅するために旅するのである。肝要な点は、動くということである」
旅は無形である。真っ白なキャンバスに自由に描くのが夢の旅である。ならば、人生を賭けるほどの大きさはなくとも、それぞれの楽しみ方でオリジナルな旅は可能なはずである。ただ課すのは、どんなに些細でも未経験のことをすることだ。リック・リッジウェイはこう言う。
「人生最高の旅とは、思ってもみなかった質問に答えてくれる旅だ」
『アウトサイダーズ』グラフィック社
GESTALTEN、ジェフリー・ボウマン/編 樋田まほ/訳