2019/03/05
高井浩章 経済記者
『ミレニアル世代のお金のリアル』フォレスト出版
横川楓/著
「若者の自動車離れ」「若者の結婚離れ」「若者の海外旅行離れ」……。
ここ10年ほど、メディアや広告代理店、シンクタンクなどのリポートには、「若者」が何かから「離れ」ているという言説があふれ、その社会・消費行動の変化に対して上の世代からは時に「好奇心がない」「草食系」「物欲がない」といった、それこそ「上から目線」の論評がなされてきた。そのたび、ネット、特にツイッター上で「そんな暇もカネもない」という若者たちの反論がなされるのは、すでにお約束という感すらある。
本書の著者は20代の元地下アイドルにしてMBA持ち、FP有資格者という異色の書き手。「ミレニアル世代の経済評論家」として若者向けファッション誌などの連載で同世代向けに経済・金融情報の発信に取り組んでいる。書籍はこれがデビュー作だ。
全編を通したメッセージは、「自分たちミレニアル世代が生きる時代には、前の世代の常識は通用しない」という警鐘だ。低成長・低賃金を「リアル」として受け入れ、その中でサバイバルし、人生をエンジョイするためには、お金という問題から目をそらしてはいけないと強調する。「お金とは何か」という基本テーマから始まり、ライフステージ・ライフスタイルに合わせたマネープラン、年金、保険、奨学金、副業など、若者が直面する、あるいはこれからの人生で直面するであろう問題を幅広く取り上げている。
類書があふれるこの分野で本書がユニークなのは、「若者目線」が貫かれていることだ。求人こそ増えているが、所得は伸びず、ミレニアル世代の多くは経済的にギリギリの生活を強いられている。筆致は抑えてあるものの、既存のマネー本の多くが「老後の備えには何千万円必要」「月に数万円は積み立て投資を」といった、恵まれた「上の世代」にしかできない、いわば絵空事にあふれていることへの著者の違和感が行間からにじみ出ている。
想定読者であろう「お金に無関心な若者たち」のため、イラストやマンガを配し、「ここまで必要か?」と思えるほど経済用語にはカッコ書きや説明を加えてハードルを下げている。ノウハウに走らず、お金と向き合う姿勢や考え方に焦点を当てているのも「最初に読む本」として適切だ。本文は平易な語り口とする一方、詳細な表とグラフを盛り込み、じっくり読めば「リアル」が数字で見えるようになっている。
ターゲットとなる若者はもちろん、私はこの本をもう少し上の世代の人たちにも読んでみてほしいと思う。
今年47歳になる私自身、団塊ジュニアであり、世代としては「ちょっと上」に当たる。私と同世代かそれ以上のオジサン・オバサンにとっては縁遠い本に見えるかもしれない。だが、自身がミレニアルである著者が同世代の読者に寄り添おうとする姿勢が、図らずも本書を、厳しい現実に直面しているミレニアルの目線やマインド、内在的ロジックを理解する格好の案内書にしている。
世代論には行き過ぎた類型化という落とし穴がある。そこを割り引いても、「当人」たちにしか見えない風景、言えないセリフがある。
経済・ビジネス書では、若い世代の書き手は起業家や尖った論客に偏りがちで、マスとしての若者を代弁した著書は少ない。世代間ギャップを埋めて若者を理解する手がかりとしても貴重な読み物だ。
『ミレニアル世代のお金のリアル』フォレスト出版
横川楓/著