吸血鬼vs.サーカス団員! 豪華絢爛阿鼻叫喚死屍累々のスプラッターショウ 『人外サーカス』

金杉由美 図書室司書

『人外サーカス』KADOKAWA
小林泰三/著

 

 

ホラー映画が苦手だ。
どうして好き好んでわざわざ恐ろしい目にあおうとするのか。
まったくもって理解不能。
ホラー漫画も苦手だ。
なんでお金と時間をかけてまで怖い思いをしようとするのか。
まったくもって理解不能。
恐怖体験は極力避けて、平穏に生きていきたい。
怖ければ怖いほど、観たり読んだりを拒否したい。

 

でも、ホラー小説はまったく無問題。
自分でも何故なのかよくわからないけれど、活字ならかなりエグイものでも受け入れられる。
イメージが脳内で一度フィルターにかけられるからかも知れない。
なので、ホラーでも小説なら歓迎。ウェルカム。ようこそいらっしゃいました。

 

…とは言うものの。

 

題名「人外サーカス」
著者「小林泰三」

 

これはちょっとダメでしょう。
嫌な予感しかしないでしょう。
予感というより確信でしょう。
賭けてもいいけど、絶対にヤバイやつ。
そもそもサーカスというもの自体が怪しい。
「悪い子だとサーカスに売られちゃうよ」とか。
「人さらいに連れて行かれてサーカスで働かされる」とか。
楽しくきらびやかな舞台の裏には邪悪な闇が広がっているに違いない。
実際のサーカス団員の方々には申し訳ないけれども、そんな印象がある。
更に、人外ときましたよ。
人じゃないんだね?魑魅魍魎なんだね?
更に更に、書いているのはあの小林泰三ですよ。
メルヘンが舞台だろうと、特撮モノが舞台だろうと、あれほどおぞましい物語を展開するんだから、
サーカスが舞台な今回が無事で済むわけがない。ないったらない。

 

期待と不安に胸ふくらましてページをめくれば、予想通り豪華絢爛阿鼻叫喚死屍累々のスプラッターショウが開幕する。
キャストはサーカス団員と吸血鬼たち。

 

この吸血鬼たちがそれはそれはヒドイ。そろいもそろって人非人。
っていうか、そもそも人じゃない。人道的な吸血鬼なんていたら逆に怖い。
仲間内の小競り合い程度でも手足がちぎれて飛び交う。
説明するのもはばかられるくらいのやりたい放題。
血も涙もないくせに常時血まみれ状態。

 

対するのはサーカス団員。
ブランコ乗りやマジシャン、つなわたり芸人などお馴染みの芸人たち。
それぞれの特技を使って吸血鬼にたちむかう。
この戦いざまが圧巻の迫力!
一般人より少し運動能力あるだけの普通の人間なのに、諦めず粘り強く、体力と知力と運を駆使しまくって不死身の敵と戦い抜く。時には愛する人を守るために自分の命さえ犠牲にする。仲間を思いやり守り合う、その絆の強さが感動的。
吸血鬼の極悪非道さとくらべ、その違いは歴然としている。
ああ、やっぱり人間ってすごいよね!友情って美しい!愛ってすばらしい!
…なんて思っていると、ほら、足をすくわれる。
ぎゃあ!

 

残虐シーンが苦手な人がうっかり手に取ってしまったら、事故だと思うしかないレベルなので、くれぐれも覚悟のうえで読むことを推奨。
「人外」で「サーカス」で「小林泰三」ですから。
笑っちゃうくらいに潔く、むしろ清々しいとさえ言える、鬼畜エンターティメントの怪作。

 

えーと、これが映画化されたら、もちろん絶対に観ない!

 

こちらもおすすめ。


『海を見る人』早川書房
小林泰三/著

 

黒い小林泰三しか知らない人にぜひ読んでもらいたい。
センスオブワンダーに満ちた物理SF短編集。
切なくロマンティックな表題作には、絶対に驚かされるはず。

 

『人外サーカス』KADOKAWA
小林泰三/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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