こんなにも頑張り続けている彼女たちに、これ以上「頑張れ」なんて言えない『非正規・単身・アラフォー女性』

金杉由美 図書室司書

『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』光文社
雨宮処凛/著

 

 

バブル崩壊後の就職氷河期、正社員になりそこねたところから、彼女たちの受難は始まる。

 

団塊の世代の子供として第二次ベビーブームに生まれ、常に競争を強いられながら成長し、少し上の世代がバブルを謳歌しまくっているのを見ながら「自分たちも!」と思っていたらバブルは目の前でパチーンとはじけ、企業の採用枠はキューッと絞られ、非正規社員として何とか食いつなぎ、常に雇い止めに怯え、貯蓄も出来ずローンも組めず、婚活しても若い女子に負け、出産可能年齢の限界に近づき、親の介護問題もすぐそこまで迫り、自分自身の老後の不安も絶望的に大きい。社会のセーフティネットからも取り残されて、親が高齢になれば実家という受け皿もあてには出来なくなる。将来的には住む場所を失う可能性も高い。まさに崖っぷち。

 

ずうぅぅぅぅぅっと、貧乏くじをひかされ続けてきた彼女たち。

 

あれ?なんでこんなことになっちゃったんだろう?

 

「私たち、がんばってきたよね」
彼女たちの何がいけなかったというのか。
別に怠けていたわけではなく、20年間食いつなぐのに必死だっただけなのに。
でも先が見えないから、とにかく走り続けるしかない。

 

「普通に働いて、普通に暮らしたい」
そんなささやかな願いさえ高望みだというのか。
いわゆる「バリキャリ」を目指しているわけでもなく、安定した生活を送りたいだけなのに。
衣食住の心配のいらない、約束された明日が欲しい。

 

「輝きたくない、ぼちぼち生きていきたい」
がんばることに疲れちゃった彼女たち。
わかる、わかります、その気持ち。
もう今さら、スポットライトなんて浴びなくていいんだよね。

 

思えば、バブル世代は楽しいことを散々享受してきたし、なんだかんだ選択の余地をもっていた。
平成生まれ世代は省エネ機能を身につけていて、そしてまだ「若さ」という最強の武器を失くしていない。
失われた世代のアラフォーたちだけが、頭数は多いのにマイノリティとして取り残されている感がある。

 

この本は、まさに非正規・単身・アラフォーのド真ん中を生きてもがき苦しんできた著者が、同世代に取材してその現実を描きだした一冊。
そのリアリティと切実さは半端ではない。
本来とても生真面目な彼女たちは、厳しい境遇の中で必死に活路を見出そうとしている。
コツコツとスキルを身につけ、めげずに婚活に勤しみ、情報を集めまくり、人間関係を広げていく。

 

けなげだなあ。
えらいなあ。
勤勉だなあ。
昭和も平成もキリギリス的に暮らしてきた自分としては、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

正解なんてないのかも知れないが、ささやかな幸せが待っているといい。
大吉じゃなくてもいいから、せめて小吉くらいのクジがひけるといい。
こんなにもがんばり続けている彼女たちに、これ以上「がんばれ」なんて言えないけれど。

 

【こちらもおすすめ】

『対岸の家事』講談社
朱野帰子/著

 

非正規・単身・アラフォー世代たちが経験できなかった「就職・結婚・子育て」の三種の神器。
でも、それらを手に入れても、自動的に「幸せ」がセットになって付いてくるわけじゃない。
むしろその三つを同時に手に入れたがために無理ゲーに放りこまれることだってある。
これは小説だけど、無理ゲーに挑まされる主人公たちの苦難は生々しい。

 

『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』光文社
雨宮処凛/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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