2019/04/16
金杉由美 図書室司書
『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』光文社
雨宮処凛/著
バブル崩壊後の就職氷河期、正社員になりそこねたところから、彼女たちの受難は始まる。
団塊の世代の子供として第二次ベビーブームに生まれ、常に競争を強いられながら成長し、少し上の世代がバブルを謳歌しまくっているのを見ながら「自分たちも!」と思っていたらバブルは目の前でパチーンとはじけ、企業の採用枠はキューッと絞られ、非正規社員として何とか食いつなぎ、常に雇い止めに怯え、貯蓄も出来ずローンも組めず、婚活しても若い女子に負け、出産可能年齢の限界に近づき、親の介護問題もすぐそこまで迫り、自分自身の老後の不安も絶望的に大きい。社会のセーフティネットからも取り残されて、親が高齢になれば実家という受け皿もあてには出来なくなる。将来的には住む場所を失う可能性も高い。まさに崖っぷち。
ずうぅぅぅぅぅっと、貧乏くじをひかされ続けてきた彼女たち。
あれ?なんでこんなことになっちゃったんだろう?
「私たち、がんばってきたよね」
彼女たちの何がいけなかったというのか。
別に怠けていたわけではなく、20年間食いつなぐのに必死だっただけなのに。
でも先が見えないから、とにかく走り続けるしかない。
「普通に働いて、普通に暮らしたい」
そんなささやかな願いさえ高望みだというのか。
いわゆる「バリキャリ」を目指しているわけでもなく、安定した生活を送りたいだけなのに。
衣食住の心配のいらない、約束された明日が欲しい。
「輝きたくない、ぼちぼち生きていきたい」
がんばることに疲れちゃった彼女たち。
わかる、わかります、その気持ち。
もう今さら、スポットライトなんて浴びなくていいんだよね。
思えば、バブル世代は楽しいことを散々享受してきたし、なんだかんだ選択の余地をもっていた。
平成生まれ世代は省エネ機能を身につけていて、そしてまだ「若さ」という最強の武器を失くしていない。
失われた世代のアラフォーたちだけが、頭数は多いのにマイノリティとして取り残されている感がある。
この本は、まさに非正規・単身・アラフォーのド真ん中を生きてもがき苦しんできた著者が、同世代に取材してその現実を描きだした一冊。
そのリアリティと切実さは半端ではない。
本来とても生真面目な彼女たちは、厳しい境遇の中で必死に活路を見出そうとしている。
コツコツとスキルを身につけ、めげずに婚活に勤しみ、情報を集めまくり、人間関係を広げていく。
けなげだなあ。
えらいなあ。
勤勉だなあ。
昭和も平成もキリギリス的に暮らしてきた自分としては、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
正解なんてないのかも知れないが、ささやかな幸せが待っているといい。
大吉じゃなくてもいいから、せめて小吉くらいのクジがひけるといい。
こんなにもがんばり続けている彼女たちに、これ以上「がんばれ」なんて言えないけれど。
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『対岸の家事』講談社
朱野帰子/著
非正規・単身・アラフォー世代たちが経験できなかった「就職・結婚・子育て」の三種の神器。
でも、それらを手に入れても、自動的に「幸せ」がセットになって付いてくるわけじゃない。
むしろその三つを同時に手に入れたがために無理ゲーに放りこまれることだってある。
これは小説だけど、無理ゲーに挑まされる主人公たちの苦難は生々しい。
『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』光文社
雨宮処凛/著