6月8日で辻説法開始100年。大谷翔平のように爽やかに『運命を拓く 天風瞑想録』

吉村博光 HONZレビュアー

運命を拓く 天風瞑想録』講談社
中村天風/著

 

 

本書の著者・中村天風といえば、メンターの中のメンターとして有名である。氏から影響を受けた人物としては、東郷平八郎、原敬、宇野千代、双葉山、広岡達朗、松下幸之助、稲盛和夫などがいる。最近の報道では、松岡修造や大谷翔平の名もあがっている。

 

2019年6月8日は、氏が上野公園の路傍で「心身統一法」を説き始めてから、ちょうど100年という記念すべき日だ。あの日・あの場所から、各界の大きなウネリが生まれたのである。「あれから100年」そして「令和元年」。そんな意識で、いま読み直したい本だ。

 

しかし私は、その記念すべき日に、ゴルフ場にいる。昨年末に始めたゴルフの腕前はいっこうにあがらず、つい先日も、ショットの度に力んでしまい130そこそこのスコアだった。練習場のレンジではまっすぐに飛ぶのに、ボールがまともに当たってくれない。

 

自意識過剰気味だが、この日に私がゴルフをすることになったのは、中村天風からの贈り物だと考えたい。勝負に力まず、ゴルフができることに満足して、平常心で臨もうと思っている。本書の関連箇所を引用したい。

 

本当の幸福とは、自分の心が感じている、平安の状態をいうのだ。
現在の生活の状態、境遇、環境、職業、何もかも一切のすべてを、心の底から本当に満足し、感謝して活きているとしたら、本当にその人は幸福なのである。  ~本書より

 

また、本書では詳述されていないが、天風思想にはクンバハカというものがある。外部から与えられるショックから心身を守り、精神の安定を確保する方法だ。これがゴルフにも通じそうなので、当日は、少し意識してみたいと思っている。

 

単純化して言うと、「お尻を絞めること」「下腹に力をこめること」「首や肩の力を抜くこと」を同時に行うのがクンバハカだという。この3点のいずれもが、この半年の間にゴルフ上手の友人から、度々私が指摘されてきたことと重なるのである。

 

クンバハカをすることで交感神経と副交感神経のバランスがとれるようになり、平常心でいられるようになるらしい。私は本で読んだだけで会得しているわけではないが、せめてスイングの際に上記3点を意識してみようと思う。

 

ゴルフだけではない。様々な困難に遭遇した際に、天風思想はそれを乗り越えるヒントを与えてくれる。本書は、その入り口にあたる本で、最初に読むべき本として刊行以来何度もメディアで取り上げられ、ロングセラーを続けている。

 

以前、ここで『感動の創造 新訳中村天風の言葉』をご紹介させていただいた際にも書かせていただいたが、中村天風に影響を受けた著名人の名前をみて、スケールの大きさや爽やかさを感じるのは、私だけではないだろう。

 

私が、はじめて天風の名をきいたとき、柳川の水面を渡る爽やかな風が私の頬をなでた。メジャーリーガー大谷翔平が、天風思想をどこまで取り入れているのかは不明だ。しかし、あの超然とした姿は、天風が理想とした「本当の幸福」とは何かを、私に突きつけてくる。

 

運命を拓く 天風瞑想録』講談社
中村天風/著

この記事を書いた人

吉村博光

-yoshimura-hiromitsu-

HONZレビュアー

出版取次トーハン就職後、海外事業部勤務。オンライン書店e-honの立ち上げに参加。その後、ほんをうえるプロジェクトの初期メンバーとなり、本屋さんの仕掛け販売や「AI書店員ミームさん」などの販促活動を企画した。一方でWeb書評やテレビ出演などで、多くの本を紹介してきた。50歳を機に退職し今は無職。2児の父で介護中。趣味は競馬と読書。そんな日常と地続きの本をご紹介していきたい。


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