akane
2018/09/20
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2018/09/20
コラムニスト堀井憲一郎氏が週刊文春で1995年4月から2011年6月まで連載した「ホリイのずんずん調査」は、世の中のあらゆることを徹底的に調べる人気コラムで、「日本人がカメラにVサインをするようになったのはいつからか」とか「小説を出版社に持ち込んだら今の編集者はどう対応するのか」とか「ダウンタウンの浜ちゃんはツッコむときに松ちゃんのどこを叩くのか」とか「シンデレラエクスプレスで本当にキスをするカップルはどれくらいいるのか」とか、その対象はあらゆる方面に向かっていた。
2004年末、堀井氏はその「ずんずん調査」年末スペシャルで、じわじわ盛り上がってきた東京落語界の状況をリアルに反映させた「東都落語家ランキング」を掲載した。2004年だけで落語会や寄席に110回ほど通い、落語を600席は聴いたという堀井氏の、個人的実体験に基づいた主観的な「今の落語家」のランキングである。
これは画期的だった。
まず、業界と何のしがらみもない観客側の視点で遠慮なく書かれていたこと。
そして書き手が「今の落語の最前線」をたくさん観ていること。
この2点は、当時の「落語評論」に決定的に欠けていた。
堀井氏はこのとき、「落語の世界はみんな死んだ名人が好き。昔をどれだけ知ってるかの自慢話が渦巻いてウンザリする」「このランキングは古今亭志ん朝をナマで見たことない人のためのもの」と言っている。
当時、雑誌などで落語を特集するときの切り口は「往年の名人をCDで聴こう」というものが多く、たまに「今の落語」を語る記事があったとしても、具体的な「観るべき現役落語家」についての情報は皆無、もしくは非常に偏った形だったりしていた。そんな中、金を払って落語をたくさん観ている堀井氏の「リアルな現役落語家ランキング」が週刊文春というメジャーな場で登場したことに、僕は快哉を叫ばずにはいられなかった。
ご自身がインタビューなどで語ったことによれば、関西出身の堀井氏は高校時代から上方落語を聴きまくっていたが、東京の大学に入って落語から遠ざかり、東京での生活が10年以上になった90年代から「なんとなく」東京の落語も聴くようになったという。そして2001年の志ん朝の死や2002年の小さんの死、柳家喬太郎ら新しい世代の台頭を実感したのがきっかけとなって
「今の東京の落語」を積極的に追いかけるようになったそうだ。
つまり、もともと堀井氏には上方落語が染みついていて、現在進行形での東京落語に関しては「21世紀の聴き手」。だからこそ「志ん朝をナマで聴いたことがない人のためのランキング」が、余計な先入観なしにニュートラルな立場で作成できたのだと言えるだろう。それは、堀井氏のランキングを見ればハッキリわかる。堀井氏は過去の評価も人気も関係なく「今だけ」を見ているのだ。
実は、この2004年度落語家ランキング以前にも、「ずんずん調査」に落語ネタはたまに登場していた。たとえば2003年には「今売られている落語CDの中で多くの演者によってやられている演目ランキング」が掲載されたし(1位は『らくだ』)、2004年には大阪府池田市を舞台にしたNHK連続テレビ小説『てるてる家族』(2003年9月〜2004年3月)にちなんで上方落語『池田の猪買い』の「大阪から池田までの道中付け」を実際に歩いてみた結果が報告されている。
そんな堀井氏が明確に「ランキング作成のための調査」を開始、聴いた落語をエクセルに入力していくようになったのは2004年2月。談志を積極的に追いかけるようになったのもこの年だとか。その後、堀井氏は年々落語を聴くペースが上がり、2011年2月までの7年間で10015席を聴いたと書いている。年平均1431席だ。
2004年から堀井氏が「年末恒例」として発表するようになった落語家ランキングは「東京の落語家を金を出して聴くに値する順に並べたもの」で、「あくまで個人的なもの」としながら「その理由は説明できる」と言っている。その「理由」を裏付けるのが堀井氏の聴いた落語の数の圧倒的な多さだ。
ちなみに堀井氏はこの手のランキングに関して必ず「東都落語家」という言い方をしていて、明確に上方落語と区別している。さすが上方落語で育った人だ。
もちろん、落語家に順位を付けるなんて無理な話だし、結局はそれぞれの好みが左右することだから、客観的に見て「正しい」ランキングなんてあり得ない。実際、僕も堀井氏のランキングを見て「それは違うだろ」と思う部分は多かった。が、それは僕自身が毎日落語をナマで観る「落語バカ」であるがゆえの「こだわり」に過ぎない。重要なのは「ランキング」という非常にわかりやすい形で「現役の魅力的な落語家」を紹介した、ということにある。
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