わたしの、あなたの、みんなの……「の」は魔法の日本語だ!

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『の』福音館書店
junaida/著

 

 

はじまりはちいさな「の」だった。黄金色の髪を三つ編みにして、黒いハットにたくさんの夢をのせた女の子の口からこぼれた「の」。女の子の髪と同じ色、さらにきらりと輝きを増したちいさな「の」。

 

これは、わたしの夢の物語。私の夢へとつながる物語。

 

朱色のコートを身に纏い軽やかにターンする女の子。このコートはわたしのお気に入り。くるっと廻ってみても、やっぱり素敵。でもね、それだけじゃ飽き足らなくなってきた。だって着ているだけじゃもったいないくらい素敵なコートなんだもの。

 

もっと、たのしいこと起こらないかな。そこでピカーンと閃いた。コート「の」ポケット「の」中にお城があったなら。うんうん、これならおもしろい、とってもワクワクしてきた。このまま、流れるままにイメージを膨らませてみよう。

 

コート「の」ポケットの中のお城「の」いちばん上のながめのよい部屋「の」…。部屋には大きなベッドで眠る王様、そのシルクの布団の上を航海する船乗り、船乗りたちの故郷のサーカス、サーカス小屋の道化師の、耳にすむ小人の帽子の先っちょの、山のふもとの小道の先の―
このままどこまででも飛んでいけそう。

 

「の」は魔法の言葉なんだね。「の」と「の」が手をつないだら、物語は終わらない。

 

あ、でもでも、もうちょっとだけ書きたいな。キュートな赤鬼、音楽の先生のレッサーパンダ、銀河の果ての美術館。三つ子の魔女、絵描きの巨人、人魚の一家。これから物語にひょこり顔を出すイメージたち。でも、これもほんの一部。

 

お気に入りのコートのポケットからはじまった物語だなんて、今ではとても信じられないくらいだね。

 

「の」が「の」を呼び、めくるめく「の」の世界は展開する。「の」が見せてくれる世界は思いもよらない。「の」はいつも想像以上の世界を引きつれてくる。

 

私もたくさんの「の」と一緒に、彩り豊かな世界を見ていきたいな。私からこぼれた「の」の先でたくさんの人と出会っていきたいな。

 

夢はどんな場所からでもうまれる。たとえばコートのポケットの中から。右耳の中からだって。私しか知らない夢のはじまる場所。だからね、もっともっとも―っと、きらめく夢を想像するんだ。だってそれができるのは、世界にたった一人、私しかいないんだから。

 

右手に「の」を、左手に「夢」を。その真ん中に立つ私は、あの子みたいにとっておきのコートを着てウキウキと世界を眺めている。

 

そんな風に生きていけたら、とってもすてきじゃない?

 

『の』福音館書店
junaida/著

この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれの水がめ座。担当は文芸書、児童書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。1万円選書サービス「ブックカルテ」参画中です。本の声、きっとあなたに届けます。

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