2019/12/27
横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店
『の』福音館書店
junaida/著
はじまりはちいさな「の」だった。黄金色の髪を三つ編みにして、黒いハットにたくさんの夢をのせた女の子の口からこぼれた「の」。女の子の髪と同じ色、さらにきらりと輝きを増したちいさな「の」。
これは、わたしの夢の物語。私の夢へとつながる物語。
朱色のコートを身に纏い軽やかにターンする女の子。このコートはわたしのお気に入り。くるっと廻ってみても、やっぱり素敵。でもね、それだけじゃ飽き足らなくなってきた。だって着ているだけじゃもったいないくらい素敵なコートなんだもの。
もっと、たのしいこと起こらないかな。そこでピカーンと閃いた。コート「の」ポケット「の」中にお城があったなら。うんうん、これならおもしろい、とってもワクワクしてきた。このまま、流れるままにイメージを膨らませてみよう。
コート「の」ポケットの中のお城「の」いちばん上のながめのよい部屋「の」…。部屋には大きなベッドで眠る王様、そのシルクの布団の上を航海する船乗り、船乗りたちの故郷のサーカス、サーカス小屋の道化師の、耳にすむ小人の帽子の先っちょの、山のふもとの小道の先の―
このままどこまででも飛んでいけそう。
「の」は魔法の言葉なんだね。「の」と「の」が手をつないだら、物語は終わらない。
あ、でもでも、もうちょっとだけ書きたいな。キュートな赤鬼、音楽の先生のレッサーパンダ、銀河の果ての美術館。三つ子の魔女、絵描きの巨人、人魚の一家。これから物語にひょこり顔を出すイメージたち。でも、これもほんの一部。
お気に入りのコートのポケットからはじまった物語だなんて、今ではとても信じられないくらいだね。
「の」が「の」を呼び、めくるめく「の」の世界は展開する。「の」が見せてくれる世界は思いもよらない。「の」はいつも想像以上の世界を引きつれてくる。
私もたくさんの「の」と一緒に、彩り豊かな世界を見ていきたいな。私からこぼれた「の」の先でたくさんの人と出会っていきたいな。
夢はどんな場所からでもうまれる。たとえばコートのポケットの中から。右耳の中からだって。私しか知らない夢のはじまる場所。だからね、もっともっとも―っと、きらめく夢を想像するんだ。だってそれができるのは、世界にたった一人、私しかいないんだから。
右手に「の」を、左手に「夢」を。その真ん中に立つ私は、あの子みたいにとっておきのコートを着てウキウキと世界を眺めている。
そんな風に生きていけたら、とってもすてきじゃない?
『の』福音館書店
junaida/著