2019/12/27
吉村博光 HONZレビュアー
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』幻冬舎
橘玲/著
2019年は、新しいことを二つ始めた。一つはゴルフだ。バブル期の過剰なリゾート開発を許すことができず、誘われても逃げ続けてきた。もう一つは投資信託だ。就職活動の頃から、金融は虚業だという思い込みがあり、銀行や証券などを毛嫌いしてきた。
だが私は、来年50歳になるのを前に、新しい景色を見たくなった。そして、これまで叩かなかったドアを叩いてみた。ただ、周囲を見渡してみると、そんなヤツはあまりいない。きっと若いころに、私よりも、しっかり考えて生きてきた証拠だろう。
こんな歳になって、ゴルフ場のラフで「あっちチョロチョロ」「こっちでポチャン」と駆けずり回っているのは、実はたいそう恥ずかしい。
ただ、うまく飛んでいったときの嬉しさは、言い表しようがない。私の場合、その「嬉しさ」が恥ずかしさを凌駕している。
ゴルフは楽しい。バブル期の開発はいけなかったかもしれないが、スポーツに罪はない。考えてみると「スキーは行くのにゴルフは行かない」というのも、変な話だ。それに、ゴルフを始めて、つきあいの幅も読書の幅も大いに広がった。
そこで、ゴルフの本も紹介したいのだが、今日はもう一方のドア。
私はこれまで「給料を稼ぎ、税金は会社に任せ、残った分を趣味にあてる」程度の考えしかもっていなかった。しかも、その趣味とは競馬(投機)である。本書を読んで、ハッキリとわかった。これまでの私は「最悪」の一語である。
社会に出てから25年。もっと早くに本書を読んで実践していれば、わが家の経済状況は今とはまるで違っていただろう。妻よ。子よ。申し訳ない。しかし、もはや霧は晴れた。直ちに、実践するしかない。残された時間がどんなに少なくとも、私は迷わない。
私は本に携わる仕事をしてきたので、本書を含めて様々なお金の本を横目でみてきた。しかし、若いうちは十分な時間も知恵も原資もなかったため、胸に響かなかった。タイミングもあると思う。今年出会えて良かった。本書の核となる考え方を抜粋したい。
もったいぶらずにお教えしましょう。これが、お金持ちの方程式です。資産形成=(収入-支出)+(資産×運用利回り)
足算と引算と掛算だけでできた、小学生にでもわかりそうな方程式です。しかし驚くべきことに、世界じゅうのひとびとを虜にしてきた「金持ちになりたい」という夢が、このたった1行に凝縮されているのです。 ~本書「1世界にひとつしかないお金持ちの方程式」より
書名の「黄金の羽根」とは、制度の歪みがもたらす幸運のことだ。本書は、それを手に入れて、確実にお金を増やす方法論を紹介している。制度の歪みというと、濡れ手で粟を想像してしまうが、そうではない。上の方程式がベースにある。時間は必要だ。
共働きで支出を抑え、残ったお金を安定した運用で増やしていけば、突飛なことはしなくても資産を築ける、と本書は教えてくれる。また、お金持ちは支出を合理的にするので、お金持ちには見えないということも書かれている。若いうちは、気づかないことだ。
また、本書には、持ち家か賃貸か?生命保険は得か損か?といった、多くの人が悩むテーマから、もっと視野の大きい制度の歪みまで書かれており、本書の知識が役に立たない人はいないだろう。お金の本はあまり読まない方も、騙されたと思って読んでみてほしい。
私は「お金について」の新たなドアを叩くと決めたとき、
2020年、私はどんな新しいドアをノックするのだろう。これからも、たくさんの本の知識を活かして、今まで避けてきたことに敢えて挑んでいきたい。そのほうが刺激も大きいに違いない。私は、本の仕事を通じて、なんとありがたい経験をしてきたのだろう。
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』幻冬舎
橘玲/著