瀧井朝世が読む『丸の内魔法少女ミラクリーナ』常識を疑う作品集

小説宝石 

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』KADOKAWA
村田沙耶香 / 著

 

村田沙耶香の最新作は、4篇をおさめた作品集。表題作は2013年に雑誌に掲載されたものだ。ずいぶん前に感じるが、既成の概念を疑う姿勢はこの頃からぶれていないと、改めて感じさせてくれる。

 

主人公の茅ヶ崎リナは、小学生の頃から魔法のコンパクトで魔法少女に変身する、という妄想によって現実社会の辛さを乗り越えてきた。36歳になる今もそれは変わらない。少女時代は一緒に変身ごっこをしていた幼馴染みのレイコはただ呆れている。

 

そのレイコが同棲相手の正志と揉めて彼女の家に転がりこみ、追ってきた彼に対してリナは、なぜか咄嗟にレイコの代わりに魔法少女になれと提案する。

 

二人は東京駅のパトロールをはじめ、道案内などささやかな善行を積んでいく。

 

最初は戸惑っていた正志だが、いつしか“正しい”行いをすることの快感に目覚めたようで……。

 

これは小説誌の「ヒーロー特集」に寄せられた短篇で、独りよがりな“正義”の危うさを、ユーモラスな設定ながら鋭く描き出す。

 

他にも、初恋相手を自宅に監禁する女子大学生の、意外な動機にはっとさせられる「秘密の花園」、性別が分かりにくい制服を着せられ、一人称は「僕」に統一された学校に通う少女の恋心を軸にジェンダー問題に切り込む「無性教室」、久々に社会復帰して働きはじめた女性が、世の中から怒りの感情がなくなり、「なもむ」という感情を表す新たな言葉が生まれていることを知って戸惑う「変容」を収録。

 

正義、恋愛、ジェンダー、言葉の定義と、モチーフはさまざまだが、どれも怒りとユーモアが同居するストーリーテリングでもって、読み手の先入観や固定観念を打ち砕いていく。突き抜けた設定と展開だからこそ描ける世界がそこにある。

 

こちらもおすすめ!

『春、死なん』講談社
紗倉まな / 著

 

一人の高齢者の日常から見えてくること 70歳の富雄は、息子の勧めで分離型の二世帯住宅に住んでいるが、妻を亡くして以降はひとりで過ごす日々を送っている。

 

コンビニでアダルト雑誌を買い一人で眺めることが唯一といっていい楽しみだが……。

 

収録されたもう一篇「ははばなれ」とともに、高齢者、父親、母親、妻、息子、娘など、与えられた役割と本音との間に乖離がある人々を登場させ、社会が押し付けてくる、あるいはすでに自分自身にも刷り込まれた既成のイメージへの疑問を投げかける。

 

ひとつひとつの言葉やエピソードが丁寧に綴られ、確かな表現力も感じさせる。

 

『丸の内魔法少女ミラクリーナ』KADOKAWA
村田沙耶香 / 著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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