2021/04/13
竹内敦 さわや書店フェザン店 店長
『三国志名臣列伝 後漢篇』文春文庫
宮城谷昌光/著
本書は滅びに向かう後漢王朝を支えた名臣7人のそれぞれを主人公にした短編集だ。
宮城谷昌光の「三国志」を読んだとき、あまりに古い時代から始まるので衝撃的だった。それまで三国志といえば定番の横山光輝の漫画からの吉川英治の原作、北方謙三の男ぶりに惚れる「三国志」、曹操が主人公の漫画「蒼天航路」がお気に入りだったが、宮城谷の「三国志」がいきなりバイブルになった。ただ、全十二巻の長さだけにおすすめするのに少々躊躇してしまう。この短編集が文庫になりとっつきやすいので宮城谷入門としておすすめしていきたいと思っている。
肉屋のせがれから政界のトップである大将軍にまで出世した何進から、黄巾の乱で大功をおさめながらも歴史に埋もれた朱儁や皇甫嵩、董卓暗殺の黒幕で有名な王允、門下に劉備がいた盧植、曹操とそりが合わなかった孔融、曹操に重宝された大才荀彧、といずれも今までの物語からは脇役の人たち。コーエーのゲームでも荀彧以外は凡将だった気がする。でもそれぞれにそれなりの地位につくまでも出世道があり、様々な形で忠を尽くしたドラマがある。スピンオフなんてものじゃない。すごく楽しい。ちなみに荀彧は後漢王朝の名臣?曹操の軍師では?と思ってみたが、読んで納得する。
高校生のときに「竜馬がゆく」を読んで以来、司馬遼太郎にはまった。戦国時代の武将の物語に、幕末の志士たちの物語に胸を熱くした。歴史小説は数多く読んだが、司馬遼太郎の語り口はまるでノンフィクションのようで教養に溢れているようで、何か知的な読書をして賢くなった気がした。エッセイは未読のものがあるが小説は全て読破した。清水義範のパロディ小説も読んでは自分でも司馬遼太郎のパロディを書いたりもした。好きな作品は繰り返し読んだ。食事中もトイレ中も歴史小説の活字がないと落ち着かないくらい中毒だった。そんな司馬遼太郎中毒者に布教したいのが宮城谷昌光だ。もし司馬さんが中国歴史小説を書いたらこうなると思うくらい同じ匂いがする。中国の歴史は知らないことも多かったから新鮮だ。最初は登場人物の名前が似たような名前ばかりで覚えられずこんがらがるが慣れの問題。知ってる人物が出る時代から読めば大丈夫。宮城谷昌光を読んだことがない歴史小説ファンがいたら是非とも読んでみてほしい。
『三国志名臣列伝 後漢篇』文春文庫
宮城谷昌光/著