2021/06/14
高井浩章 経済記者
『キリン解剖記』ナツメ社
郡司芽久/著
まさか、キリンの解剖というテーマで、泣かされるとは思わなかった。
本書との出会いはネットで話題になった「ミニキリン」が発見されたというニュースだった。結局、それはほぼ誤報だったのだが、なぜそんな情報のゆがみが広がってしまったのか、詳細に検証してくれたのが著者の郡司芽久さんだった。
ツイッターのプロフィールの「小さい頃からキリンが好きで、2017年3月に念願のキリン博士になりました」という一文に惹かれ、すぐに『キリン解剖記』を入手した。
物心つく前の、キリンのぬいぐるみと並ぶ幼い姿の写真。
どこにでもいる普通の学生が、研究者へと脱皮する歩み。
その道のりを助ける恩師の存在や、周囲の協力者たちとの縁。
そして、研究者としてのステップアップと歩調をあわせて解き明かされていく「キリンの8番目の首の骨」の謎。
王道ともいえる筋書きの科学者誕生物語が、精緻で誠実で、ときにユーモラスな文体でつづられる。
キリンという身近なようでよく知らない動物がテーマなこともあって、面白さは折り紙付きだ。
面白い、を超えて心を打つのは、本書からあふれる喜びと愛だ。
著者は、今なお子どもの心のままにキリンへの愛を持ち続けながら、研究者として「大人の手」でその謎を解き明かす。
解剖した個々のキリンへの感謝の念と愛情が全編にあふれていて、読者にもその澄んだ心の動きが伝播する。
これから読む方にアドバイスを。
まずはカバーを取らずに通読してほしい。
そして、天職を得たものの喜びとキリンへの愛、「3つの無(無制限・無目的・無計画)」に根差した博物館のあり様を叫ぶ「おわりに」まで読み進んだ後、カバーをとって、表紙と裏表紙のイラストを見てほしい。
なぜ私がキリンの解剖記録の本に涙したか、理由が分かるだろう。
『キリン解剖記』ナツメ社
郡司芽久/著