2021/10/28
小説宝石
『開城賭博』光文社
山田正紀/著
あと2年でデビューから50年というベテランなのに、山田正紀の小説はいつも斬新で瑞々しい。琴線にコツンと触れた、歴史書の一行、故人の愛読書、食べ物の由来などから発想し物語のうねりに取り込んでしまう。この短編集もそうだ。
特に勝海舟の人物像にはずいぶんと興味があるようで、タイトルにもなっている「開城賭博」と最後の「咸臨丸ベッド・ディテクティブ」は、明治維新の真実なのか? と思わせる「あってもおかしくない話」になっている。
表題作は「無血開城」を決めた江戸薩摩屋敷における勝海舟と西郷隆盛の密談。知力を尽くして丁々発止の頭脳戦の故の結果かもしれないが、それよりこの小説のように胆力と忖度の探り合いのほうが人間味があるし、後年言い伝えられている勝海舟や西郷隆盛の人物像に相応しい気がする。
「咸臨丸ベッド・ディテクティブ」では、アメリカまでの航海中、船酔いで使い物にならなかった勝海舟が、どうやって汚名をすすいだのかを思わぬ切り口で解決する。
“三つ子の魂百までも”を表したような「ミコライ事件」は吉村昭『戦艦武蔵』に書かれていた「防諜専門家」と、ある作家のプロフィールの一言からそれぞれのパーツを、ジグソーパズルのように組み立てていく。
一番長い「独立馬喰隊、西へ」は戦国時代末期、武田騎馬隊の残党がご神木を江戸まで運ぶ、というアクションもの。何かに似ていると思いついたのは「鬼滅の刃無限列車編」だ。あのスピード感、スリル、先の見えない面白さは“山田正紀”っぽい話だったと気付く。要するに、歴史の真実なんて知ったこっちゃないわけで、読者は面白がればいいのだ。
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石井ふく子/著
橋田壽賀子さんへのレクイエム
本書はプロデューサーで演出家の石井ふく子さんから、60年にわたりコンビを組み今年4月に亡くなった脚本家・橋田壽賀子さんへのレクイエムである。
ふたりが仕事をしたのは1964年のこと。「人を書きたい」という橋田さんと、それに「人間のドラマを作りたい」と答えた石井さんは出逢うべくして出逢った。
記憶に強く残るのは『渡る世間は鬼ばかり』。90年に始まり2021年の敬老の日にスペシャル版が放送される予定であったが、叶わぬことになってしまった。まさにライフワークを成し遂げたふたりの軌跡である。
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山田正紀/著