2022/05/23
UK-inspired
『沖縄50年の憂鬱』光文社新書
河原仁志/著
1972年に沖縄が日本に返還されて今年で50年が経過した。5月15日には式典も行われ、全国的に再認識されたことだろう。本土復帰50周年のタイミングに合わせて沖縄関連の書籍が多く出版されたが、ベテランジャーナリストが綿密な取材に基づいて著した本書は、その中でも出色の完成度の高さであり、存在感を放つ。沖縄返還についてはさまざまな先行研究があるが、本書は近年公開された文書についても詳細に調べ、丹念な取材でまとめた。
交渉は日米両政府に当事者がいるが、本書は、日本側はもちろん、米側の考え方についても詳しく記述し、全体像を立体的に描き出している。米国の本音や思惑がどこにあったのか。相手の手の内に迫っている部分が特徴である。
当時のアメリカはダラスで凶弾に倒れたケネディ大統領を継いだジョンソン政権である。ベトナム戦争の泥沼に足を踏み入れていたアメリカにとって沖縄はアジア戦略上、重要な土地であった。一方で、沖縄の人々のことを考えると早く返還しなければならないと当時の駐日アメリカ大使であったエドウイン・ライシャワー氏が痛感し、訪日した当時のロバート・ケネディ司法長官に返還の必要性を説くなど、米側の内発的な動きもあった。
米軍の出撃拠点としての沖縄をどう位置付けるのか、核の取り扱いをどう整理するのかなど難しい問題をひとつひとつ交渉で詰めていく様子は生々しい。日米双方のリーダーが考えを巡らし、それぞれの国益に有利になるよう駆け引きを続ける過程は、緊迫するドラマを見ているかのような展開である。外務省の官僚による交渉では進みにくい高度に政治的な案件については「密使」を派遣する。その詳細についても各種資料をもとに再現してゆく。
当初沖縄問題に関心の薄かったヘンリー・キッシンジャーが、途中から交渉の中心に乗り出してくる動きや、当時日米間の経済摩擦になっていた繊維問題が沖縄返還交渉に絡み出してくる場面なども印象深い。
さらに核の扱いに関してアメリカが日本に理解を示すようなメッセージを出していたにも関わらず、なかなか日本側がそれに気付かず、アメリカ側の交渉当事者を困惑させた様子なども紹介される。
ベトネム戦争の激化に対応するために、是が非でも沖縄の基地使用を継続したいアメリカが、1970年の日米安保条約の延長がスムーズに運ぶか神経質になっていた背景事情も目を引く。アメリカの国内事情や当時の国際情勢が交渉に色濃く反映していたことが良くわかる。
交渉の過程で密使によるやりとりがあったのは以前から知られ、本書でも迫真のやりとりが紹介される。その中で日本側がじわじわと譲歩を余儀なくされていく様子から、外交交渉は時に厳しく、あらゆる手を繰り出して行われるというシビアな現実が垣間見える。おそらくそれは今も形を変えて続いているのだろう。50年の節目で沖縄の苦難の歴史に思いをはせ、未来を考える気づきを与えてくれる必読の書である。
『沖縄50年の憂鬱』光文社新書
河原仁志/著