東えりかが読む『無年金者ちとせの告白』必死に働く老女たちが手を組んだ

小説宝石 

『無年金者ちとせの告白』光文社
西尾潤/著

 

舞台は中央自動車道を高井戸インターチェンジから西へ一時間以上車を走らせた場所にある“坂田PA(パーキングエリア)”。ここを運営する(株)アイノフーズには定年がない。よって現在の従業員の平均年齢は六十二歳と働かなくてはならない高齢者にはありがたい会社だ。だが社長の息子の専務は会社を若返らせたい意志を持っている。

 

先月、飲食部から清掃部に異動させられた梨元ちとせ(72)はリウマチに痛む膝を引きずりながら、主任の権田二郎太とともに駐車場の掃き掃除やトイレの清掃を行う。とくにトイレは辛い。終わると腰が抜けたような疲労感に襲われる。

 

飲食部で働く同僚の古田中栄(75)には引きこもりの息子が居り、やはりこの年まで働かなくてはならない事情がある。

 

ある日、PA下りの無料の第二駐車場で長く無断駐車する車に警告書を貼りに行かされたちとせは車内で死んでいる男を発見する。

 

ここは甲州街道からも自由に出入りでき、認知症の母を介護する男やシングルマザーなど車上生活者がいるため、生活困窮者を支援するNPO法人「うぐいす」の岡本康文が気にかけてくれていた。

 

ちとせも栄も若い頃はそれなりの暮らしをしていたが、年金もなく貯金もほとんどない今、倹約に倹約を重ねてどうにか生きている状態だ。だがそんな寂しい心の隙間を突くように、悪人は寄ってくる。

 

人が一瞬だけ行き交うPAの裏で必死に働き続ける老女たちがある事件で手を組んだ。死んだ者は葬り、生き残った者に希望を持って生きのびさせるための大胆な行動とは?

 

人は誰でも年を取る。その日その日を必死に生きる老女たちの来世に幸あれ。

 

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『無年金者ちとせの告白』光文社
西尾潤/著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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