歌舞伎町で「愛という名の課金」が繰り返される理由

坂爪真吾 NPO法人風テラス理事長

『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』小学館
宇都宮直子/著

 

画像:Unsplash Tristan Gassert撮影

 

シャンパンタワー、高額なボトル、バースデーイベント…。毎晩ホストに信じられないような金額をつぎ込む女性たち、ホストに通うために風俗やAV、パパ活で働く女性たちは、はたから見れば、理解も共感も不可能なモンスターのような存在に見える。

 

しかし、本書『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』を読むと、彼女たちがなぜそうした行動をとるのか、理解できるようになるはずだ。

 

本書の中で、「姫とホストである限り、お金を払えば全ての問題は解決する」という格言が登場する。一般の人から見れば、お金を介した人間関係なんて、本当の関係ではない、と思うかもしれない。

 

しかし、お金を介した関係性=悪、という理解は単純過ぎる。住宅でいえば、持ち家にするか賃貸にするか、と同じことだ。自分で家を所有したい人もいれば、いつでも他の住まいに移れるように、毎月家賃を払い続けることを選ぶ人もいる。「賃貸は本当の住まいじゃない」という人はいないだろう。

 

お金を払って得られる関係性でしか、他者と繋がれない人はいる。お金を払った関係性でしか、他者と繋がりたくない人もいる。

 

そうした人にとって、お金を払えば全ての問題が解決する世界は、非常に住み心地がいい。何より、お金は自分の目に見えるし、相手に見せられるし、触って数えることもできる。

 

母親が新生児を育てるために1日15時間使ったとしても、それは目に見えないし、新生児からも感謝してもらえない。「生まれたばかりの子どもを育てるために、1日15時間使った」と訴えても、「母親であれば、当たり前のことだよね」と、誰からも褒めてもらえない。愛情は自分の目に見えないし、相手の目にも見えない。触って数えることもできない。

 

しかし、ホストに100万円つぎこめば、少なくともその晩は、担当から歓待してもらえる。担当のランキングも上がるし、自らの武勇伝にもなる。「愛という名の課金」であれば、結果が目に見えるし、相手に喜ばれるだけでなく、自らの承認欲求も満たせるのだ。

 

メンタルを病んでうまくコミュニケーションが取れなくても、相手との関係性や社会的信用をぶち壊す言動をしてしまっても、担当の脇腹をピンクのセラミック包丁で刺してしまったとしても、お金さえ払えば、通報もされず、被害届も出されず、明日から何事もなかったかのように、お店で遊ぶことができる。

 

もちろん、お金を払えば全ての問題が解決できる、というのはあくまで願望混じりの建前であり、現実はそこまで単純ではない。刺された傷跡や刺した罪は消えないし、失われた命は戻ってこない。

 

しかし、恋愛関係において、時として「命<愛」となる瞬間があることと同様、「愛という名の課金」を繰り返す人にとっても、「命<金」となる瞬間がある。担当との関係性を保つことができるのなら、居心地の良い今の場所に居続けることができるのなら、自分の身体や命を金に変えてもいい、あるいは他人の身体や命を金に変えてもいい、という発想になる。

 

作家の村上龍は、「お金で幸福を買うことはできないが、不幸を避けることはできる」と語った。ホス狂いの彼女たちは、お金で幸福を買ったつもりになっているが、その実は、必死に不幸を避けているだけ=マイナスをゼロに近づけようとしているだけなのかもしれない。お金が尽きた瞬間、一気に元の不幸な状態、あるいはさらにひどいマイナスに落ちてしまう。それでも、あるいは、そうだからこそ、ホス狂いはやめられない。

 

著者自ら歌舞伎町に住み込み、彼女たちの心情に寄り添って書かれた本書は、「愛という名の課金」を繰り返す女性たちを理解したいと考える支援者や専門職にとっても、重要な参考文献になるはずだ。

 

『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』小学館
宇都宮直子/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

NPO法人風テラス理事長

1981年新潟市生まれ。NPO法人風テラス理事長。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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