2022/11/10
小説宝石
『クローゼットファイル 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』講談社
川瀬七緒/著
桐ヶ谷京介は高級ブランドと特殊な技術を持つ職人や工場を結びつける服飾ブローカーだ。コロナ禍でも、高円寺南商店街の小さな店にはオンラインでの依頼が引きも切らない。それだけではない。服のシワや傷み方を見れば、美術解剖学に基づいた知識で筋肉のダメージを読み取れるし、服飾史にも通じているため、事件の背景を推理することが出来る。
前作『ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』に続く二作目の本書では、本格的に杉並警察署の未解決事件捜査の依頼を受け、現場を調査することになった。相棒は同じ商店街にある古着屋のカリスマ店主、水森小春。彼女はいつのまにかゲーム実況でも人気を博し、登録者数が百万人に到達しそうな勢いである。杉並警察署のお馴染み、南雲隆史警部とともに新人で爽やかな八木橋充巡査部長も仲間に加わった。
今回手掛けた事件は六つ。「ゆりかごの行方」では捨て子に着せられていた大人もののTシャツから親の職業を当て、「緑色の誘惑」は独居老婦人を殺した犯人を最近の着衣の趣味から探り当てる。「ルーティンの痕跡」では水森小春の下着泥棒を遺留品の男性用下着の傷み方から割り出した。「攻撃のSOS」では女子中学生の制服のシワから虐待を見抜き、「キラー・ファブリック」ではアナフィラキシーショック死の原因を突き止めた。「美しさの定義」では服飾学校の生徒が使ったミシンの中に残された糸くずと埃から犯人を割り出す。
洋服というわかりやすいアイテムを使った物語は推理小説の入門編としてうってつけ。桐ヶ谷京介のファンになるにちがいない。
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