本屋は「オワコン」? 書店の悲哀と、それでも働き続ける理由

金杉由美 図書室司書

『早番に回しとけ』KADOKAWA
キタハラ/著 山本さほ/イラスト

 

画像:Unsplash Sean Benesh撮影

 

前作の『遅番にやらせとけ』では、共感しまくりのうなずきまくりで首を傷めた。
しかし続編の本作は…おおぅ…胸に突き刺さりすぎて言葉もない。

 

今回の舞台は、さかえブックス五反田店。
サカエグループの歴史はこの五反田店から始まった。
しかし右肩下がりの業界事情をいち早く見越して雑貨事業からアパレルにまで手を伸ばし、今ではそちらがメインとなっている。
主人公の由佳子はアパレルを希望し入社したが、突然五反田店に異動となり、書店店長という意に沿わない役職に就くこととなった。
本になんか興味ないし!
書店なんてオワコンだし!
ベテランバイトたちにダメ出しされまくる毎日で、今では当社拒否になりかけている。

 

あるあるある!
店長のくせに本が好きじゃないし知識ないしって素人以下のヤツ、いるいるいる!
書店員だった頃、何回店長を怒鳴ったことか…
棚整理しろとか台車出しっぱなしにするなとかレジで居眠りするなとか営業中にストッカーの中でゴキブリ潰すなとかミニスカート着てくるなとかバックヤードで泣くなとか…
いかん、いかん。つい黒歴史がよみがえってしまう…
そんな店長に比べれば由佳子はまだ許容範囲ですよ?書店の常識は知らなくても、社会常識はあるんだから。
とにかく本屋では「バイトより店長の方が使えない」は、たいして珍しくない。

 

そしてお客様という厄介な神様に関するネタも、前作に引き続いて共感しかないレベルで展開される。
エロ本のタイトルを言わせようとする神様、いるいるいる!
毎日立ち読みしにきて絶対に買わない神様、いるいるいる!
案内所と間違えていろいろ訊いてくる神様、いるいるいる!
ちなみに道を訊かれてわからないと答えると「本屋だから地図あるだろ!」とお叱りを受けることも度々ある。

 

でも、そんな店長とお客様にどれだけ苦労させられても、給与が安くても、本屋で働きたい本屋じゃなきゃ生きていけないという書店員は一定数いるのだ。不思議なことに。
本屋なんてもうヤダ!と百万回思っても、でも本屋をもう一度好きになりたい!と百万と一回思っちゃうような、そんな呪われたおバカさんどもに支えられて残り少ない書店は存続しております。
もちろん、ネットでいくらでも本が買えるし電子ブックなら場所も取らないのに、なーんか面白い本はないか自分で手に取って確かめながら探したいAIのお薦めなんかアテにならんという酔狂なお客様にも支えられております。
考えてみれば、特殊な趣味嗜好をもった偏屈な店員と奇特なお客様に寄り掛かって細々と成り立っている業種なんだなあ。そりゃあ愛はあっても未来はないよなあ。
と、いうようなことが泣き笑いのうちにしみじみと伝わってきてグサグサ刺さる物語。

 

サブタイトルでうたわれている「書店員の覚醒」、この場合の覚醒って「呪いにかかる」っていうことですから!

 

今日も一日、お疲れ様でした。

 

こちらもおすすめ。

『新!店長がバカすぎて』角川春樹事務所
早見和真/著

 

山本店長と武蔵野書店がまだ生き延びていてよかった…のか?
全国のリアル書店員のイライラと共感を呼んだ話題作の続編。
心の中もしくはバックヤードで「店長のバカー!!!」と叫んだことのあるすべての書店員に読んでほしい。そして今回は更に書店員と本好きの心をえぐる名セリフ満載。
“本屋さんがない街なら私は住みたくありませんー”
“それでもなんとかいい本と巡り会って、お客さまに喜んでいただきたいと思うから、私たちはみんなこんなに給料が安くても歯を食いしばってがんばってるんじゃないですか”
ほんとほんと、ほんとよほんと。
山本店長の変態度の加速にも注目したい。かわいい♪という意見もあるようだけど、一緒に働いていたら地獄だぞ?

 

『早番に回しとけ』KADOKAWA
キタハラ/著 山本さほ/イラスト

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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