2022/12/12
小説宝石
『君のクイズ』朝日新聞出版
小川哲/著
クイズ番組に出演した三島玲央は、決勝まで進んだものの敗れる。対戦相手の本庄は、最後の一問を問題文がまだ一文字も読まれる前に、早押しで解答したのだった。やらせか、それとも、不正なしに正答しうる理由があったのか。三島は本庄のこれまでの足跡を調べる一方、番組での記憶をたどり直す。
小川哲は今年、満洲にある都市が形成され消滅するまでを描いた巨編『地図と拳』を刊行した。長大なストーリーによって戦争に揺れる時代をとらえた力作だった。一方、この『君のクイズ』は、短めの長編である。題材も、多くの人からただの知識競争、単なるゲームと思われているクイズだ。ところが、クイズプレーヤーである三島の推理や考察を追ううちに、読者はこの競技の奥深さだけでなく、あわせ持つ怖さのようなものに触れることになる。
クイズの問題文には途中で「〜ですが」と入るパターンがあり、なにについて答えるべきかが決まる「確定ポイント」がある。ポイントが示されてから解答ボタンを押すのでは遅く、いかに先回りするかが勝負の鍵になる。だが、どこまで先回り可能なのか。本作はミステリとして、この謎を魅力的に書く。
クイズは世界のすべてを対象とするため、世界が変化すればクイズも変化するのだという。主人公が競技クイズのテクニックについて考えることは、人間が自分のいる世界をどのように知り、生きているかを考えることにつながっていく。クイズを通して世界や人生が描かれるのだ。そのため、「確定ポイント」が示される前に判断しなければならない、賭けざるをえない場面を読むと、人生にも同種の局面はあると思いあたり、緊張に襲われるのだ。
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■カリスマの軌跡を分析する
一九九八年のソロ・デビューで社会現象的な人気を得たものの、東京事変というバンドへ移行し自己像を刷新した椎名林檎。以後も彼女の行動は、賛否を呼んだ。『椎名林檎論 乱調の音楽』では、自身も楽器演奏する映画研究者・北村匡平が、音楽の送り手と受け手、双方の視点から彼女の表現史を読み解く。例えば、曲のどこで巻き舌のR音が使われ、どんな効果を上げたか。また、詞や曲構成から初期の特徴として「いま」や触覚の強調、分裂した意識を指摘し、後にどう変化していったか。そうした多様な論点を掲げ、分析する過程がスリリング。
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