2018/08/28
今泉愛子 ライター
『こじれた仲の処方箋』
ハリエット・トレーナー/著 吉井智津/訳
人間関係をこじらせる要因の一つに、謝罪がある。原題は「Why won’t you apologize?」
あなたはなぜ謝らないのか。迷惑をかけられた側、傷ついた側は、相手が謝ってくれさえすれば許すのに、と思うのだが、謝らない人は徹底して謝らないし、形だけの謝罪でゴマかす人も多い。
一方で、理不尽な謝罪を求めてくる人もいれば、せっかく謝ったのに、相手が許してくれないことも少なくない。
そんなとき、私たちはどうやって気持ちを切り替えればいいのか。心理学者で、クリニックで20年以上にわたりセラピーを担当しているという著者は、たくさんの事例をもとに解説する。
浮気した夫を許せない妻、仕事で妹の結婚式を欠席した姉、子どものささいないたずらに激昂する夫、パーティでの振る舞いに難癖をつけてくる友人。大げさな言い方をすれば、私たちはつねに相手を許せるかどうかの瀬戸際に立たされている。
本書がすぐれているのは、相手を謝罪させる方法を指南するのではなく、どう“解釈”すれば、謝罪しない相手を受け入れることができるかを解説する点だ。
なぜ、彼、あるいは彼女は謝らないのか。完璧主義者は、自己防衛の気持ちが強く働くし、自分にとって不都合な現実に向き合うことが即、自分を否定することにつながってしまう人もいる。そんな相手に謝罪を求めても苦しくなるだけだ。
謝罪してもらっても受け入れられない場合もある。職場のトラブルを、自分のせいにして処罰を逃れた同僚から、数年後に謝罪のメールが届いた。この場合、相手を許せるだろうか。許さない自分が狭量なのではないかと思う必要はない。「あなたの謝罪は受け入れられません」と伝えていいのだ。
ここまで書いて気づいたが、私は本書を一貫して自分が「謝罪を受ける側」として読んでいた。著者は、「謝罪する側」にも謝罪の方法を丁寧に解説しているのに、その部分は、あまり熱心に読んでいなかった。私だって、適切に謝罪できていないこともあるはず。例えば、子どもたちに。あるいは親に。それに思い当たったことが本書を読んだ最大の収穫かもしれない。
『こじれた仲の処方箋』
ハリエット・トレーナー/著 吉井智津/訳