時間管理は難しい
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

時間をきちんとする。

 

……苦手である。時間に限らず、何かを管理するのがもうダメである。時間とかモノとか、比較的管理しやすそうなものでもダメなのだから、何かの間違いで管理職などにならなくて、ほんとうによかった。それぞれが意思をもって動く人の管理など、できるわけがない。

 

ところで、ぼくは仕事の締切は守るほうだ(反対意見もあるかもしれないけれど)。すると、時間管理ができていそうに思われるかもしれないが、できていない。

 

あるタスクに対して、1か月の猶予が与えられたとして、1か月でちゃんと自分がそれを仕上げられるかどうかが、不安でたまらない。むしろ、放っておくと忘れてしまうリスクも高い。なので、徹夜をしたり、他の仕事をうっちゃったりして、2~3日で仕上げたりする。

 

「几帳面なんですね」と言ってくれる人もいるが、むしろずぼらであることに自信があるのだ。そして、真面目なわけでもない。締切を超えることに抵抗はないが、そこで怒られるのが怖い。小心者なのである。

 

そもそも、あまり早く仕事をあげると、まわりの評判だってよくはない。几帳面とか速いとか言ってくれる人はいいが、どちらかと言えば「やっつけ仕事を持ってきたのでは?」と勘ぐられることのほうが多い。

 

であれば、他の仕事と並行して行ったり、少なくとも徹夜はやめたり、仮に早く仕上がっていても締切間際まで温存しておけばよさそうなものなのだが、自分の時間管理を信用していないので、とにかく出すものを早く出しておかないと落ち着かない。

 

ああ、そういえば、子どもの頃はお風呂からあがると、ろくに体を拭きもせずに寝間着を着てよく怒られていた。手順的には、体をきちんと拭いてから、おもむろに着衣するのが美しい。そんなことは百も承知なのだが、水気を飛ばしているうちに他のことに気が削がれて、着るのを忘れるのが怖いのだ。あんまり周囲には理解してもらえなかったけど。

 

仕事以外のことでも、深夜アニメなど見始めてしまうと、気がついたときには空が白んでいたり、ひどいときには一周して次の夜になっていたりする。だから、サブスクリプションサービスは得だとわかっていても、あまり契約しない。

 

以前にソシャゲの時間管理について短いペーパーを書いたときも、「取り敢えず自分でもやってみないとな」とアカウントを作ってプレイしたら、いつの間にか何百時間も投じていた。ミイラ取りがミイラである。

 

では、ぼくの子はどうかと言えば、まず時間の観念がだいぶ怪しい。自閉の子は見通しが悪いとよく言うけれども、5分後の未来と50年後の未来がなんだか一緒くたな気がする。江戸時代と白亜紀がシームレスに接続されているような気もする。

 

そもそも時間は難しいのだ。ぼくらは未就学の時点でふつうに11時50分とか、20秒とか日常生活のなかで教わり始めるが、12進法と60進法の組み合わせである。几帳面な子ほど混乱するだろう。そして、自閉っ子はとても几帳面である。

 

10進数の四則演算に苦労しているところに、「9時10分前」を詰め込むのはなかなか難事業だ。だから、ぼくの子に関しては、時間がかなりアバウトでも大目に見ている。したがって、彼の作るカップラーメンは、かなり固いか、そうとうのびているかだ。いつか適切な硬度になることを期待している。

 

ただ、父と同じで怒られたり失敗したりするのは怖いらしく、朝の飛行機や新幹線に乗る用事があるときは、寝ようとしない。寝過ごすのが恐ろしいのである。帰りの飛行機も同様である。

 

「もう空港に行こうよ」
「いやいやいやいや、今行ったら空港で何時間待つと思ってるんだ。もう一泳ぎしていこうぜ」
「バスが遅れるかもしれないし、飛行機が早く出ちゃうかもしれない」

 

こんなやり取りで、いくつの観光地を棒に振ったかしれない。

 

ルーズなよりはいいけれど、飛行機くらい乗り遅れたって死にはしないことを、成人までには覚えて欲しい。

 

でも、締切は遅らすと、死が近づくかもしれない。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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