革命と悪魔が幕開けた黄金時代、彼らはブルースの大河を遡上する―ザ・ローリング・ストーンズの1枚【第65回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

37位
『ベガーズ・バンケット』ザ・ローリング・ストーンズ(1968年/Decca/英)

Genre: Rock, Country Blues
Beggars Banquet – The Rolling Stones (1968) Decca, UK
(RS 58 / NME 94) 443 + 407 = 850

 

 

Tracks:
M1: Sympathy for the Devil, M2: No Expectations, M3: Dear Doctor, M4: Parachute Woman, M5: Jigsaw Puzzle, M6: Street Fighting Man, M7: Prodigal Son, M8: Stray Cat Blues, M9: Factory Girl, M10: Salt of the Earth

 

彼らの長いキャリアのなかでも、「黄金時代」と言えばじつはひとつしかない。それが始まった時期がここだ。名プロデューサー、ジミー・ミラーと組んだザ・ローリング・ストーンズは、初顔合わせとなったシングル「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」(68年)が起死回生の大ヒットとなる。同じ時期に制作されたのが、イギリスでは7作目のスタジオ・アルバムとなるこの1枚だ。

 

逆に言うと、この時期の直前のストーンズは、かなり危険な状態にあった。67年に発表した前作アルバム、邦題を「サタニック・マジェスティーズ」とする1枚は、折からのサイケデリック・ブームに飲み込まれた愚作だとして、大いに叩かれた(「シーズ・ア・レインボウ」など、のちの人気曲も入っていたのだが)。ブルースを基盤としていたはずのバンドが本質を見失った、と揶揄された。「絶対に超えられない」ライバルであるビートルズの跡を追っているだけではないか、とも。

 

そんな世評を、まず前述のシングルがふっ飛ばした(だから「回生」だった)。アルバムはもっとふっ飛ばした。「悪魔を憐れむ歌」との邦題で有名なM1は、アフリカン・リズムのコンガとうなるベース(キース・リチャーズが弾いた)、そして「悪魔が自己紹介している」という設定の歌詞が不穏なナンバーだ。この曲のレコーディング風景はフレンチ・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手、ジャン=リュック・ゴダール監督が撮影、ほぼ同時期に世界を震撼させたパリ五月革命を連想させる「革命的」映像とカットアップされて、『ワン・プラス・ワン』と題された映画となった。

 

そのせいか、路上の革命に参加できないバンドマンを歌ったはずのM6も、この時期まさにデモ隊の行進曲のように愛された。突如として、ストーンズは「反体制派」があこがれる、不良ロッカーの親玉のような立場となる。相次ぐドラッグ問題での政府や官憲との対立も、支持者にとっては好感度アップの材料となった。

 

一方、本作はストーンズがルーツに回帰した、という意味も大きい。土くさいカントリー・ブルースへの傾倒がこの時期の特徴で、M2、M3、M7が聴きものだ。

 

本作の仕上がりを前に、ミラーとバンド・メンバーは、お互い顔を見合わせてほくそ笑んだことだろう。ストーンズの「その後の長い長い未来」の原資となる音楽的アイデンティティは、ほぼこの1枚によって確立されたのだから。

 

次回は36位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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