SWOT分析から戦略は生まれない? ビジネスパーソンが陥りがちな“フレームワーク病”(前編)
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あなたは、経営戦略の勉強を、「経営手法やフレームワークを覚えること」で終わらせていませんか? 昨今の日本では、毎年のように新しいビジネス用語やフレームワークが海外から輸入され、関連する書籍の出版やセミナーが盛んに行われている。しかし、それらには限界があり、一見客観的に見える手法に実は作成者の意図が潜り込んでいるといった数々の“落とし穴”が潜む。こうしたフレームワークの「正しさ」と「危うさ」を解説した光文社新書『ビジネス・フレームワークの落とし穴』が発売されました。
本書から(1)経営戦略 (2)マーケティング (3)組織・人事 (4)財務・M&A (5)その他 の5つの場面におけるフレームワークとその“落とし穴”を抜粋し、全4回に分けてご紹介します。
第1回の今回は、経営戦略において日本企業で最も使われていると言われる「SWOT分析」の“落とし穴”です。

 

 

■SWOT分析(SWOT Analysis)

「やりたい人の主観を、客観的に見せるためのフレームワーク」

 

SWOT分析は、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、環境の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を分析して、戦略を導き出す方法である。その4つの頭文字をとって、SWOT分析と呼ばれる。

 

起源としては、1960年代にハーバード・ビジネス・スクールの経営政策グループによって開発されたとする説や、スタンフォード・リサーチ・インスティテュート(SRI)のアルバート・ハンフリーが確立したという説もあり、定かではない。

 

おそらく日本企業で最も使われているビジネス・フレームワークの1つであるが、戦略系の経営コンサルタントは、ほとんど使わないフレームワークでもある(その理由の1つとして、彼らは、課題を絞りこまないで、ただ分析から入るというやり方をとらない)。

 

SWOT分析に関して、公開された例を2つ紹介しよう。正しく使われているのは、どちらであろうか?

 

 

どちらも正しい気もするが、残念ながら2つとも、使えるSWOT分析とは言いにくい。

 

これらのどこが間違っている、もしくは使えないのであろうか?

 

以下では、SWOT分析の落とし穴を2つの点から見ていこう。

 

(1)主語のないSWOT分析?

 

経営戦略のテキストを読むと、「SWOT分析から戦略が導かれる」と書かれているが、実際には、やりたい戦略が先にあって、上司やトップ・マネジメントを説得するために作られるのがSWOT分析である。

 

何故そうなるかと言うと、「主語のないSWOT分析は作れない」からである。

 

言い換えれば、「ソニーのSWOT分析をしろ」という課題は、回答不能である。

 

例えば、ソニーがゲーム機のプレイステーションを開発しようとした時と、現在はスピンアウトしているが、パソコン「VAIO」を開発しようとした時に、はたして同じSWOT分析が行われたであろうか?

 

プレイステーションを開発する時に、SWOT分析を行ったとすれば、「機会」として、ゲーム機市場の伸び、顧客層の拡大などがあげられ、「脅威」として、ゲーム機市場は任天堂にほぼとられていたことがあげられるだろう。一方、経営資源としては、ソニーは当時レコード店という販売チャネルを持つ「強み」があったが、ゲームソフトの開発の経験や販売ルートは持っていなかった(弱み)。

 

一方、「VAIO」を開発する時にSWOT分析を行ったとすれば、「機会」として、パソコン市場の伸びがあげられ、「脅威」としては、当時パソコン市場はNEC、富士通、IBM等にすでにおさえられていたことがあげられる。

 

かたや、経営資源としては、ソニーはMSX、AXという8ビット、16ビットのパソコンを開発・販売した経験を持つが(強み)、IT業界でのプレゼンスは相対的に低かった(弱み)。

 

以上のように、ゲーム機の時とパソコンの時では、全く異なるSWOT分析が行われるのであり、主語のない「ソニーのSWOT分析」というものは、存在しないのである。

 

例えば、「営業マンが3000人いる」という事実は、競争相手によって、強みにも弱みにもなる。

 

それ故、やりたい戦略が見えてから行うのがSWOT分析であり、社内説得用のフレームワークとして、今日でも多用されているのである。

 

電器メーカーのSWOT分析(図表4)の機会の欄に、「介護保険対象層の拡大」という記述があったが、これなどは、後に介護事業への進出という戦略の提示がない限り、普通の電器メーカーのSWOT分析として書かれるのは、極めて唐突であり、奇妙である。

 

すなわち、作成者が介護事業の提案を念頭に置いて作成したものと言える。

 

また、図表5、三越伊勢丹のSWOT分析に関しては、主語が三越伊勢丹に限定されておらず、「老舗百貨店」を主語にした程度の分析しかなされていない。この分析を競合の髙島屋に持っていっても、松坂屋に持っていっても通用する。

 

すなわち、三越伊勢丹の経営資源の特徴が反映されておらず、これをいくら分析しても、使える戦略は出てこないであろう。

 

(2)強みは弱み、機会は脅威と裏腹

 

SWOT分析では、強みと弱み、機会と脅威を抽出しなくてはならない。しかしこの作業は、思ったほど簡単ではない。

 

まず強みと弱みに関しては、例えばNTTにとって、基地局、各種通信設備・装置を持っていることは、将来の事業展開にとって強みと考えやすい。

 

しかし、ハードウエアを「持っている」ということは、大きな環境変化に対しては、「資産」ではなく、逆に「負債」になってしまう可能性もある。

 

NTTがIoT通信事業に参入しようと思えば、すでに持っているハードウエアがそのまま利用できる。

 

しかしIoTを利用したいベンチャー企業が、NTTのような大手通信キャリアのシステムを利用するには、初期費用もかかり、料金も定額制が多く、停止や変更の手間も多い。

 

こうした中、アマゾンのクラウドと似たサービスをIoT分野で提供しようと、ソラコムが創業された。

 

NTTがハードウエアで実現する機能を、ソラコムはすべてソフトウエアで実装し、低コストとシステムの柔軟性を実現した。ユーザーが初期費用として払うのは、SIMカードが1枚954円だけで、基本料金は1日10円、データ通信料は従量制で驚異的に安い。

 

さらに、ユーザーが自分のコンピュータでサービスの利用開始・変更・休止を操作でき、拡張も縮小も自由自在である。

 

このように、ベンチャー企業向けのIoTシステムを展開するには、NTTが持っているハードウエアは、「強み」ではなく「弱み」になってしまう可能性もある。

 

またセブン銀行のATM網は、現在は強みであるが、もし日本のキャッシュレス化がスウェーデンや韓国並みに進めば、現金を引き出す機械としては、持つことが弱みになってしまうかも知れない(そのためセブン銀行では、ATMが“負債”にならないように、すでに次の戦略を考えているが……)。

 

このように、企業の強みは弱みにもなりうるのである。

 

また、「機会」と「脅威」をどう峻別するかも難しい問題である。

 

日本の銀行にとって、フィンテックの到来は、一般には脅威ととらえられている。IT系のベンチャー企業が、決済の周辺業務などに参入してきており、銀行の既存事業が侵されているからである。

 

しかしながら、フィンテックを契機に、銀行が今までリーチしにくかった顧客層にアプローチできるようにもなってきた。スマホを使ったネット・バンキングなどがその例である。

 

そうしたスキルと意欲を持つ銀行にとっては、フィンテックは、またとない新規顧客開拓の機会と言うこともできる。

 

このように、機会と脅威、強みと弱みは裏腹の関係にあり、絶対的なモノサシはないのである。

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山田英夫(やまだひでお)

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