「東京医大不正入試事件」の後、女性合格者が明らかに増えた!
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2018年7月――東京医大の入試不正事件をきっかけに明るみに出た、女性の医学部受験者への減点操作。フリーランス麻酔科医として政治家・プロスポーツ選手・AV女優など様々な患者の手術を行い、ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)
など医療ドラマの制作協力にも携わる著者が、今まで誰も公言できなかった女医問題の真実を語る光文社新書『女医問題ぶった斬り!~女性減点入試の真犯人~』が刊行!これを記念して、本書の一部を公開します。東京医大事件は何を世に問うたのか? 第4回です。

 

 

◆女性支援の充実には、人数制限?

 

女性減点入試に対する「意識高い系」有識者の意見は、軒並み「女性を排除するのではなく、女性が長く働きやすい体制を整えるべき」といった内容になっている。

 

実際、ここ10年で、医療界は「時短勤務」「当直免除」など、女性医師が長く働けるような制度を整えてきた。

 

現在の大学病院には、女医復職支援室のような部署が必ず設置(運用実態は様々だが)されているし、研修医募集のホームページには「医師の夫と結婚して、出産後は平日昼間のみ時短勤務しています」といった女医が、ロールモデルとして登場していることが多い。

 

こういう情報はインターネット上で広く公開されているので、女子高生やその親も簡単にアクセスすることが可能である。

 

しかしながら、それを支援する側として確実に存在するはずの「当直月10回の独身女医」的な人材は、まず病院ホームページには登場しない。

 

こうした流れを受けて、「資格は一生使える」「日本社会の中では比較的マシ」「医師の時短勤務の方が、学校教師よりラクかも」「男性医師と結婚できて時短勤務……ってステキ♪」と、高学力女子高生が医学部に集中するようになった。

 

「早慶上智などハイスペック女子大生が、総合商社一般職に集中」と似たような構造である。

 

その結果、「女性支援制度を整えれば整えるほど、受験生の女性率は上昇し、相対的に女性を支援するはずだった男性が弾かれる」というジレンマが存在している。

 

「女医の出産・育児を無理なく支援する」ためには「支援される人数の倍以上の支援する人材数」が必要になる。それを実現するための方策が、入試における女性減点、および3分の1で止まった医大女性率だったとも言える。

 

2019年1月、女性減点入試が発覚した順天堂大学が、かつて受賞した「女性活躍推進大賞」を返上していたが、「女性支援策の充実には、女性率制限が必要」というジレンマを表す一例でもある。

 

◆ゆるふわ女医の増加

 

現在では、各種ミスコンに入賞する女医やバラエティ番組で活躍するタレント女医は増える一方である。「医師夫と都心タワマンで暮らすセレブ女医」のようなメディア記事も多い。

 

2017年には、就職早々に育休を取得しようとした若手女医に苦言を呈した管理職が、マタハラで処分される事件もあった。

 

多くの大病院は公立病院なので、産育休時短に関してのコンプライアンスは遵守されるようになり、「女は要らない」発言も(表向きは)皆無になった。

 

その結果、俗に「ゆるふわ女医」と呼ばれる、「医師免許取得後は、スキルを磨くよりも男性医師との婚活に励み、結婚出産後は昼間のローリスクな仕事を短時間だけ」「当直・手術・救急・地方勤務は一切いたしません」といった女医が目立つようになった。

 

彼女らは「出産・育児の経験を医療に生かす」「患者に寄り添う」をセールストークにすることが多い。

 

「女3人で男1人分」という東京医大関係者の発言が非難されているが、組織にぶら下がって「男の3分の1」レベルの仕事しか担わない「ゆるふわ女医」は実在し、残念ながら増加傾向にある。

 

2016年の厚労省の第二回医師需給分科会では、日本女医会会長の山本紘子先生が、「お惣菜医者」として、「週2回ぐらい午前中だけ働いてある程度の収入を得て、後の時間は自由に子供の教育や自分の趣味に使う女性医師」を紹介している。

 

また、医師需給分科会では「女性医師は男性医師0.8人分」として医師マンパワーを計算しているが、山本先生は「実態としては(0.8より)少ない感じ」とも発言している。私も同感である。

 

2018年、東京医大の女性減点入試に関係して、あるメディアが女性医大受験生にインタビューを行った。

 

「どういう医師になりたいか」を訊くと「女性医師が院内保育やパートなどの制度を活用していると知り、自分もそう働きたい」と、2浪中という予備校生が回答していた。

 

医大合格すらしていない段階なのに「将来はパートで働く」と即答しており、「当直・手術・救急・僻地勤務」というような用語は彼女の職業観にはなさそうだった。

 

◆医師需給計画の誤算

 

2016年に公表された厚労省の医師需給推計では、「医師需給は2024~2033年に均衡に達し、それ以降は過剰になる」とされており、2018年度に導入された新専門医制度など厚労省の医療政策は、基本的にこの推計をベースにしている。

 

たとえば、2018年4月には、医師過剰時代に備えて2022年度以降の医学部定員削減方針が公表されている。

 

しかし、この推計では、30~50代男性医師を1人分とした場合に、女医と60代以上医師を0.8人分と仮定して計算している。

 

また、医大女性率は過去10年間の平均値である31.8%が今後も継続することを前提としている。

 

そして、医大生は25歳前後で医師国家試験に合格した後、約40~50年間働くことを前提としており、島津有理子氏のように44歳で医大進学するような高齢医学生は、この医師需給推計では想定されていない。

 

◆2019年度のガチの学力入試結果は?

 

2019年5月、東京医大は、2019年度医学部一般入試合格率が「男性16.9%、女性16.7%」と公表し、前年度の「男性8.8%、女性2.9%」から是正されたことを世間に印象づけた。

 

2019年度入試における最終的な全医大の女性率は、本稿執筆時(2019年5月)までには正式発表はなかったが、大手医学部専門予備校のメディカルラボの調査では、合格者数は前年に比べて女子は1.2倍、多浪生は1.4倍に増えたそうである(『週刊朝日』2019年4月26日号)。

 

2018年9月の文科省の緊急調査では、「2013~2018年度の医大合格率平均値は、男性11.25%に対して女性9.55%であり、男性が1.18倍高い」と報告されているので、「ガチの学力入試になったら、女性が1.2倍増えた」というのは納得できる数値である。

 

また、同記事には「5浪男女が合格」「15浪超が合格」という予備校コメントもあったが、このような元多浪医学生が、スムーズに6年後に医師国家試験に合格するか否かは危惧されるところである。

 

2019年度の女性医大生率は31.8%×1.2倍の約38%をベースに、不適切入試による追加合格者の多くが女性なので、2025年度医師国家試験合格者の女性率は40%を超え、しかし合格率の男女差は縮小することが予想される。

 

そして、「現実はもっと低い」と日本女医会会長や現場からは指摘されていたが、ポリコレが怖くて正確な数値化から逃げていた「女医=0.8×男性医師」という数式にも、厚労省や大学病院幹部は真摯に向かわざるを得なくなった。

 

「女3人で男1人分」という東京医大関係者の発言は、あながち間違いではなかったのかもしれない。

 

何はともあれ、厚労省の医師需給計画は、根本からの変更を余儀なくされそうである。

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女医問題ぶった斬り!

女医問題ぶった斬り!女性減点入試の真犯人

筒井冨美(つついふみ)

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