【対談】木村椅子×本山聖子 小説宝石新人賞受賞後の変化とは?
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ryomiyagi

2020/01/24

 

 

近親者が死ぬことは特別じゃない。日常は続いていく

 

ーー授業中ってのは、それは、居眠りしてたからですか?

 

木村 そうです(笑)。授業中だから、先生が順番に当てていくんですよ。でもこっちは金縛り中だから、焦りました(笑)。心霊現象ではなかったとしても、そういう体験が死を恐れるきっかけになったのかもしれません。

 

他にも、十代の頃に母親が亡くなって、同時期に親戚の不幸が続いたことで、いつか自分も死ぬんだろうな、とよく考えるようになったのも、大きな理由でしょうね。未だに死に対する恐怖を抱えている部分があります。

 

本山 でも、作品の中の死は悲しいだけじゃなくて、次に進むためのきっかけになっていたりしますよね。家族の死をどう受け止めるか、とか。死を扱っているけれど、前向きな作品になっているのがすごいな、と思いました。

 

木村 読後感のいい話を書きたいと思っていたから、ということはあるんだと思うんですけど。大学時代に、ツルんでいた友だちと話していたら、僕の他にふたり、近親者を亡くした経験のある人がいて。そのときに、ああ、特別じゃないんだと思ったんですね。そういうこともあって当たり前で、日常は続いていくんだ、と。そうやって自分を慰め、納得させていただけかもしれませんが。

 

本山 木村さんの作品には、本筋のストーリーとは別に、謎解きとかミステリーのような趣向もありますよね。この人は結局白黒どっちなのかとか。テンポよく読める楽しみを作ってくれていて、やみつきになります。私にはそういう書き方ができないので、いつもすごいな、と思います。

 

木村 もともとミステリーは好きなんです。小説を読むようになったきっかけもミステリーですし。でも、何本か短編を書いた頃に、担当編集さんから「一回もミステリーっぽいもの出してこないよね」と言われまして。今回の本にミステリー小説そのものは含まれていないんですが、そうした引っかけや仕掛けがあるのは、ちょっと挑発されたからですね(笑)。

 

 

ーー木村さんは、『おっぱいエール』、どう読まれましたか?

 

木村 最初、担当編集さんからPDFをもらったとき、なんとなくタイトルを見て、「どんなビールなんだろう」と思いました。

 

本山 そっちですか!?(笑)

 

木村 いや、ちょうどビールの広告を見ていたタイミングでメールが届いたんですよ。でも、すぐ、「あ、エール違いだ」って。

 

―ーこんな名前のエールビールはないでしょう?(笑)

 

木村 もちろん、そうなんですけど。一瞬です、一瞬。多分、思う人、他にいないと思います(笑)。
で、すぐ読んだんですけど、この小説、僕はすごく好きです。

 

―ーどんなところが?

 

木村 いっぱいあるんですけど、病をとおしてその人の成長を、病と直接は関係ない問題も含めて、描いていて、人間ドラマとしてすごく面白い。あと、変な言い方なんですけど、読んでいて、「この人、すごく話聞いてくれそうだなあ」と思ったんですよ。

 

本山 え? 私がですか?

 

木村 そうです。そう感じたのは、とても包容力のある小説だからだと思うんです。みんなそれぞれ、問題抱えてるじゃないですか、病に限らず。それでどうしていいかわからなくなって、身動き取れなくなっている人に、響く小説のように感じました。

 

乳がんという、女性にとってとても大きなテーマを扱っていて、それって、僕ら男が想像する以上のものがあると思うんです。でも、この作品は、その病気に罹(かか)っていない人たちの悩みも、決して否定しないじゃないですか。ランドセルを誰が買うかとか、結婚式の受付を引き受けるかどうかとか……そういう悩みって生き死ににはかかわらないし、病気の悩みとは比べられないんだけど、「それはそれで大変なんだよね」と、ちゃんと掬(すく)い取ってくれている。登場人物たちがそれぞれの大変さに気づいていく過程の描き方が、とても好きでした。

 

 

死ぬところだけが、闘病だけが、私たちの人生ではない

 

ーー闘病経験のある本山さんが、あえて病気をモチーフにして、ノンフィクションではなく小説を書こうとしたのはなぜだったんでしょうか。

 

本山 「生きる小説を書いてみませんか」とチャンスをいただいたからです。私は今三十九歳なんですが、二十七歳の時に乳がんになって、当時既にライターの仕事をしていたので、「絶対にこの経験を、面白いエッセイにしてやる」と人生の目標を定めたんですね。小説を書き始める前のことです。でも、無名の一般人が闘病記を出したところで、著名な方もたくさん出していますし、何のメッセージ力も持たないかな、と。それで、実現しないままでいたんですが、今回長編を書くチャンスをいただいたときに、「よし、まずは生きることについての小説を書こう、全力でぶつかってみよう」と思ったんです。

 

でもやっぱり、当事者でもあるので自分の経験と小説の距離感をはかるのが難しかったです。エッセイを書くときのためのメモはたくさん取ってあったので、今回小説を書くときに使えるんじゃないかと考えていたんですが、書き進めても「なんか違う」という思いが抜けなくて。結局、私がエッセイに書きたかった自分の思いや体験談を、小説の中に無理矢理入れ込もうとしていたんです。それでうまく距離感がはかれなくて。このままこの小説を書き進めたら、私、「エッセイ寄りの小説」しか書けなくなってしまう、と思いました。

 

それで、同世代の乳がん患者の友人たちにアンケート用紙を送って、協力してもらいました。十枚ぐらいの長い、突っ込んだアンケートでした。返送された体験談をそのまま使うようなことはしなかったんですが、同じ乳がん患者と言っても、抱えてる思いや事情は違うところもあるので、参考になりました。それで、みんなの思いを胸にもう一度はじめからやり直してみよう、と。物語のなかの登場人物と、私自身を切り離すのに時間がかかったのは、未熟さゆえではあるんですけども。

 

木村 すると、書き始めたときとは、かなり変わっているんですか?

 

本山 第一章は、あとかたもないと思います(笑)。どうしても書けなかったので、第二章から書き進めて、第三章まで書いた後に第一章に戻って、書き直しました。もっと自分に力があったら、と思いつつ、今できるだけのものは出し切った、とも思っています。ある意味、まったく知らない世界をゼロから調べて書いた方が書きやすかったんじゃないかと思いました。

 

もっと早く書けるんじゃないかとも思っていたんですが、二年半、かかってしまいましたね。でも、すごい挑戦をさせていただいたと実感しています。これが書けたことで、今後は書き手の存在や思いが出過ぎないように意識していくことが少しはできるのではないかと思います。

 

若い世代の闘病を扱った小説や映画はたくさんあると思うのですが、ほとんどの作品が病を得てから、死ぬところがクライマックスというか、死ぬシーンが感動的に作られて、ワーッと泣いて、っていう。もちろん、それも命の尊さとか何でもない日常の大切さを教えてくれると思うんですけど、当事者からすると、「闘病だけが私たちの人生ではない」「死ぬところだけにスポットライトを当てないで」という思いもあって。病気と病人が一対一で向き合う話ではなくて、病気を抱えながらも、普通の毎日を過ごしていく人を描きたかったんです。

 

木村 作中で、がんの厄介さを犬の糞にたとえているところも、好きです。

 

本山 あれ、いつの間にか書いちゃって(笑)。自分がそう思っていたわけじゃないんですが、ありがたいことに明るいシーンになりました。

 

ーー全体的に、明るい小説ですよね。

 

本山 ホントですか!? とてもうれしいです!

 

木村 海外ドラマのような味わいがありますよね。物語後半で主人公たちが金沢のあたりを長距離ドライブするシーンがありますが、アメリカのハイウェイを走っているような開放感がありました。

 

 

ーーこれから、どんな作品を書いていきたいですか?

 

木村 短編を千本ノックのように書き続けてみて、自分にも思っていたより引き出しがあるんだな、と思いました。本山さんが闘病体験を経て長編小説を書かれたように、自分のなかにも、「あるな」とも、気づいてきました。そういったものを、面白い小説として書きたいです。

 

本山 同じく、とにかく猛烈に面白いモノを書きたいです。今回の作品は面白くなるかはもちろん、そもそもモノになるのかもわからず、書きたいという気持ちだけで書いていたところがあるので、あらためて「こんな話が読みたかった」と言ってもらえるような作品を書いていきたいと思いました。

 

小説って書けば書くほどわからなくなるし、真っ白なパソコンの画面を見ながら、本当にここが文字で埋まるのか、ひと文字目、一枚目を書き始めるときの恐怖感があって、それは一冊書いても消えなくて。早く、小説を書いている自分に慣れたいです。何万枚書けば慣れるのか、わかりませんけれど。

 

木村 わかります。怖いですよね。その怖さと、面白いモノを書きたいということを意識できるようになったのが、お互いの二年半の収穫なのかもしれませんね。

 

 

 

木村椅子(きむら・いす)
北海道出身。2014年、『オボロメモリの星空を』でノベルジム大賞2014特別賞を受賞。2015年、『五月の桜はさよならの式日』で第4回ノベラボグランプリ最優秀賞を受賞。2017年、「ウミガメみたいに飛んでみな」で第11回小説宝石新人賞を受賞。

 

ウミガメみたいに飛んでみな』 光文社
木村 椅子/著

 

【あらずじ】就職活動はうまくいかなくて、そもそも特にやりたい仕事もなくて、彼女とは喧嘩になり、未来が全然見えない。実家の母親はすでに亡く、父親はアイドルグループにはまっていた。笑うチャンスはたくさんあったけど、素直に笑える気はしなかったーー。モラトリアムを生きる若者たちと家族の関係を瑞々しく描いた傑作小説集。

 

 

本山聖子(もとやま・せいこ)

鹿児島県出身、長崎育ち。東京女子大学文理学部日本文学科卒業後、児童書・雑誌の編集に従事。2007年結婚。翌年27歳のときに患った乳がんの闘病を機にフリーランスに転向。2017年「ユズとレモン、だけどライム」で、第11回小説宝石新人賞を受賞。

 

おっぱいエール』光文社
本山 聖子/著

 

【あらずじ】橘百花25歳。妊活を始めた矢先に乳がん発覚。古賀菜都32歳。老舗造り酒屋の嫁として育児に奮闘する中、乳がん発覚。田中柚子29歳。花嫁検診で乳がんが見つかり婚約破棄。闘病ブログを通して出会った三人は、ひょんなことから金沢を旅することに。若年性乳がんを乗り越えた著者が、女性たちの生きる希望と勇気を描く。

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