糖尿病の医者が教えない理想の運動療法「まずはタンパク質を摂れ」
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BW_machida

2021/07/09

 

東京都瑞穂町は6月、高齢者のワクチン接種を想定し、参加者が来場し接種を終えるまでの所要時間を細かく計測する模擬訓練を行った。訓練は、職員らがスタッフ役の約30人と、接種を受ける住民役の約50人に分かれ、検温・消毒と受付を済ませ、アレルギーの有る無しなどの医師による問診を受けた後に接種を受け、経過観察のための別室へ移動する。この間のシャツの袖をまくるのに要する時間も考慮した本番に近い形の訓練だ。
所要時間は1人およそ12分。50人の接種を終えるには約1時間を必要とした。

 

先日『糖尿病の真実』(光文社新書)を手に入れた。著者は、日本糖質制限医療推進協会提携医を務めるなど、長年、糖尿病と戦ってきた水野雅登医師だ。今や糖尿病と言えば、高血圧と同じく最も日常的に耳にする疾病の一つ。幸いにして、まだ私自身は宣告されていないが、それでも気にならないと言えば嘘になる。
早速本書を読み進めるうちに、たちまちそこかしこがむず痒くなってきた。
罹患してない気ままな身を、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)だの、膵臓ベータ細胞だの、DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬などの暗号が激しく攻撃してくる。しかし、そんな読み飛ばしてしまいそうな暗号の中に、決して読み飛ばせない、恐怖の文言を見つけた。
それは、日本の医療現場では、患者が診察室に入って出ていくまでに8分以上の時間をかけられないという現実だ。

 

現在、糖尿病の標準治療は「三大療法」と呼ばれる、(1)食事療法、(2)運動療法、(3)薬物療法の3つが大きな柱となっています。
とはいえ、食事療法は診察時に「バランスよく食べてね」「甘いものを食べ過ぎないでね」くらいで終わってしまうことがほとんどです。皆さんも経験したことがあるでしょう。外来診療では、一人一人にかけられる時間が3~5分程度しかないためです。それ以上に時間をかけると、患者さんたちの待ち時間がどんどん雪だるま式に増えていってしまいます。

 

また医療機関としては、診察数が少ないと、採算がとれなくなる、ということもあります。診察以外の時間も含めて、内科では8分が採算ラインといわれています。診察前の検査結果やカルテチェック、患者さんを呼んでから診察室での診察時間、その後のカルテの記載、処方、などなど、全部含めての8分です。
このため、視診・問診・聴診・触診などの診察をし、検査結果を説明し、処方薬について説明するための診察時間が、せいぜい3~5分になるわけです。糖尿病は他の病気と一緒にあることが多く、その病気の診察や説明なども必要です。3~5分は、一瞬です。(太字部分は同書より抜粋。以下同)

 

そういえば、しぶしぶ足を運んだ病院の記憶は、診察室よりも待合室の場面が圧倒的だ。受付を済ませて待合室のベンチに腰を掛け、名前が呼ばれるのを延々と待つ。やっと呼ばれて診察室に入って丸椅子に腰かけたかと思ったら、思っていた以上にあっさりと部屋を追い出されてしまう……。この一連の呆気なさに、「あぁ、思ったよりも軽かったんだな」と胸を撫で下ろしたものだが、どうやらそんなことではなかった。診察室でのあっさりしたやり取りは、単に採算性の範疇であって決して病が軽いからではないらしい。
ましてや多くの病がそうだが、特に糖尿病の場合は他の病気との合併症が重篤化を加速する。そんな糖尿病の診察にすら「8分間の採算ライン」が適用されるのならば、私が患った風邪だのインフルエンザなどは、診るに値すらしないのかもしれない。

 

しかし、そんな「8分間の採算ライン」を守りながら、いったいどんな治療行為が行えるというのだろうか。甚だ疑問である。
引用部分にもあったが、糖尿病の標準的な治療には、食事療法・運動療法・薬物療法の「三大療法」があるという。このうち、医者が診察室で行うのは薬物療法であって、その他の食事・運動については「バランスよく食べて」とか「運動するといいですよ」ぐらいしかアドバイスする時間は許されていない。

 

通常の保険診療で、食事療法について十分な説明をする場合には、管理栄養士の協力が必須となります。熱意ある管理栄養士さんがいる場合には、しっかりと説明をしてくれます。一方、運動療法については、食事療法の指導以上に時間がかけられていません。(中略)というのも、「運動療法について指導する医療職」というものが、糖尿病においては存在しないからです。

 

能力的には、リハビリに関わる理学療法士などのスタッフが指導可能ですが、理学療法士が保険診療で運動療法について指導を行う、という制度がないのです。理学療法士は、あくまで病気にかかった後のリハビリを担当する役割を担っています。このため、短い診察時間で医師が「運動するといいですよ」といった一言をかけるくらいが限界なのが現状なのです。
しかし、運動療法の血糖値改善効果は、十分に行えば、絶大です。運動すれば血糖値は上がりにくくなり、下がりやすくなります。身体だけでなく、精神面でも改善する効果があります。しかも、適切に行えば、運動には「薬の副作用」のようなデメリットもありません。

 

こんな風に本書は、これまでにも何度となく耳にし聞き流してしまっていた食事や運動がもたらす効果を、薬物療法を担う著者自身の言葉で明確に示してくれている。
中でも著者が推進するのが「有酸素運動」。ウォーキングや軽いジョギングだ。
体内に取り込んだ糖分は、肝臓や筋肉の細胞内にグリコーゲンとして蓄えられ、このグリコーゲンが尽きると体脂肪をエネルギー源として燃やし始める。これがいわゆる「ダイエット効果」なのだろう。

 

しかし同時に、著者が警鐘を鳴らすのが「タンパク質不足」。
脂肪(脂質)からブドウ糖を作り出す(代謝)際に、タンパク質が不足していると筋肉などが材料となってしまうらしい。そうして筋肉そのものが減れば、その分、基礎代謝が減り、体内の糖質を燃やす力そのものが衰えていく。という極めて分かりやすい道理だ。

 

タンパク質不足は非常に軽視されていますが、多くの人が「深刻なタンパク質不足」の状態であることに気づいていません。また、医療機関でも教えてくれません。(中略)
運動による筋肉の減少を避けるためには、まずは「タンパク質不足」の解消から始めましょう。肉や卵、プロテインなどで体内にしっかりタンパク質を供給し、タンパク質不足が改善されてきたら、次のステップとして「筋肉トレーニング」を行います。(中略)まとめると、次のようなフローが運動療法の理想になります。

 

(1)肉、プロテインなどで高タンパク食にする
(2)スクワットなどの筋肉トレーニング
(3)ウォーキングなどの有酸素運動を行う

 

現代社会の医療現場に許された、「8分間の診療」では足りていない本当の糖尿病治療のありようと、今からでもできる未病対策が明確に示されている。
『糖尿病の真実』(光文社新書)は、現在、糖尿を患っている方はもちろん、まだ患ってはいないけれど十分に注意した方がいいと思っている方々に、「これならできるし、やった方が得だ」と思わせる心強くもありがたいアドバイスが満載の一冊だ。

 

文/森健次

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