サッカー未経験のJリーグ戦術分析官が紐解く「サッカー史上最強のチーム」
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ryomiyagi

2022/03/01

 

昨日、冬季北京オリンピックが閉幕した。21世紀の今も民族“浄化”政策を推進する中国において開催されるオリンピックが、果たして平和の祭典たり得るのか。そんな単純な問いにすら答えの出せない、問題山積のオリンピックがやっと終わった。

 

しかし、そんな思惑すらも吹き飛ばす、それほどの感動と興奮を、冬の北京に集ったトップアスリートたちはもたらしてくれた。
国の内外を問わず、世の中は相変わらずのコロナ一色だが、そんな中でも、一昨年のラグビー・ワールドカップに始まり、東京オリンピック、北京オリンピックとビッグイベントが続いた。中でも、開催が危ぶまれた東京オリンピックの暗い谷間に現れた米・大リーグにおける大谷翔平選手など、やはりスポーツの持つ力は絶大だと思い知らされた気がする。
そんな中、目を転じれば、あれほどの隆盛を誇ったサッカー、Jリーグのニュースを目にすることがなくなったように感じるのは私だけだろうか。そんな私の手元に『サッカー店長の戦術入門』(光文社新書)がある。著者は、サッカーが好きで、自らは未経験者にもかかわらず世界各地のサッカーを見て歩き、ただただ毎日、2万字にも渡る超長編の試合分析を自店のブログに掲載し続ける異常にサッカーに詳しい「変態」店長・龍岡歩氏だ。同氏はその後、なんと藤枝MYFCから戦術分析官としてのオファーを受ける。
そんな異色な戦術分析官が観る、未来のサッカー像に俄然興味が湧いた。

 

私はブログのタイトルにもしていたように、常々「戦術とは浪漫である」と思っています。戦術は過去の偉大なチームと現在を線でつなぐ、一本の糸のような役割を果たします。

 

戦術とは過去の偉大なチームと現在をつなぐ糸……。例えば、将棋で言うところの棋譜のようなものだろうか。なんともロマンチックな考え方である。確かにそこには、ゲームの趨勢を支配する指揮官の考え方や、チーム戦力が見えてくるのかもしれない。
そんな著者が、「浪漫に満ちた一本の線」と称する歴代名将の戦術が本書にはつぶさに紹介されている。
チェルシー、インテル・ミラノ、レアルマドリード、マンチェスター・ユナイテッドなどなど、Jリーグの試合を観に行ったこともない私ですら知っている強豪クラブを渡り歩いたジョゼ・モウリーニョから、天才の名を欲しいままにしたジネディーヌ・ジダンなど、現代サッカーを更新し続ける8人の智将が繰り広げる究極の戦術。それを、異常にサッカーに詳しい(変態)店長が、自身をJリーグの戦術分析官にまで押し上げた戦術眼により紐解いていく。

 

そもそもサッカーというかくもまどろっこしいこの競技は、広大なフィールドを使って右に左にボールを動かしながらゴールを目指すのを目的としている。にもかかわらず、人間の部位の中でその目的に最も適していると思われる「手」の使用を禁じている。(中略)
つまり、サッカーという競技の本質はその「不確実性」にあると言っていいだろう。なにせ手を使わせないルールによって意図的に、その不確実性が生まれるよう仕向けられているのだ。過去100年余りの歴史の中で同じゴールシーンは一つとしてなく、勝敗は極めて偶発的な影響を受けている。

 

本書は、そんな不確実性に満ちた競技であるサッカーで、確実な勝利を目指し続けた司令塔ペップ・グアルディオラを引き合いに出す。ペップ率いるFCバルセロナは、当時(2008~12年)黄金期を迎え「ドリーム・チーム」と呼ばれた。ピッチには、まさにボールを足で握れるかの如く巧みに操る選手が居並び、彼らは皆、適切に配置され、意のままにボールを走らせる。常勝の所以である。
わずか19歳にしてバルセロナにおいてデビューを果たすペップは、痩せて足の遅い選手だった。しかし、監督であるヨハン・クライフの見方は違った。

 

「このチームで一番スピードがあるのはペップだ。体格や足の遅さは問題では無い」

 

そう云い放った。クライフの言うスピードとは、ピットでボールを追うスピードではなく、ゲームの状況を把握し、適切なボール位置とプレーのアイデアを導き出すスピードのことだった。

 

バルサの選手はボールを持つとまずペップを探した。否、探さなくても済むようにペップは常にピッチの”ヘソ”で待っていた。

 

ここに「ポジショナルフットボール」が完成する。
しかしそれも、21世紀初頭における完成形でしかなかった。
本書によれば、世界のサッカーは、20年代に入って更に進化し続けているという。
私のようにTV観戦するしかない者からすれば、メッシやロナウジーニョといった超スター選手がいかに駆け抜け、どれほど華麗なシュートを決めるかでしかなかったサッカーは、著者の語る戦術の妙を知るにつけ、拙いサッカー観が変わってゆく。

 

「サッカー史上、最強のチームはどこか?」
この問いに明確な答えを出すことは難しい。だが、「ペップバルサ」はその最有力候補の一つだろう。このチームを支持する声は現役の選手や監督ら有識者だけでなく、多くのファンからもいまだに根強い。もちろん、私もその一人だ。

 

1990年の夏。まだJリーグすら立ち上がっていない日本に、初めてバルサが来日した折のなんとも不思議な感覚を覚えている。
小学生の頃の球転がし程度のプレー経験でしかない私にとって、当時、世界最強と言われるサッカーチームの何が最強なのかすらよくわかっていなかった。ただ、そんなバルサが、日本選抜チームと二度に渡って繰り広げたゲームは、なるほど緊張感に満ちた観ていて飽きることのない(なかなか点の入らないサッカーは観ていて飽きることがあった)スポーツ・ゲームだということを教えてくれたように記憶している。

 

本書『サッカー店長の戦術入門』(光文社新書)は、得てして「知る人ぞ知る妙技」の連続になりがちなサッカー観戦を、サッカー未経験者がのめり込んでいくという視線で、観ることの楽しさと奥深さを教えてくれる一冊だ。これからのTV中継が楽しみでならない。

 

文/森健次

 

『サッカー店長の戦術入門』
龍岡歩/著

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