BW_machida
2022/09/08
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2022/09/08
内藤ルネ、をご存じだろうか。
内藤ルネは、1932年に愛知県に生まれ2007年に亡くなった。イラストレーターであり、人形作家であり、デザイナーであり、はたまたエッセイストでもある。名前から女性の作家を連想するが、本名は内藤功(いさお)。男性である。本人は早くから同性愛者であることをカミングアウトしていた。
1950年から60年代にかけて少女雑誌『ジュニアそれいゆ』の表紙と挿絵を担当。丸顔の小さな顔に零れ落ちそうな大きな瞳、ぷっくりとした赤い唇。女の子の夢と憧れをすべて詰め込んだようなチャーミングな女性像は「カワイイ」という言葉がぴったり当てはまる。一度見たら生涯忘れられない、独特な世界観だ。
ルネのユニークな作風は1984年から1998年の長きにわたって表紙を担当したゲイ雑誌『薔薇族』でも遺憾なく発揮された。ルネのイラストに描かれる男性像は、明るくて健康的で、なによりロマンチックだ。伯爵だったり、ちょんまげだったり、軍服だったり。あるいはタコに絡みつかれている美男子とか、オウム貝の中に入っている美男子とか、羽がはえた海兵さんなど。揃いもそろって美男子なのもいい。
本書は、「カワイイ」文化を生んだ内藤ルネのゲイアートを集めた作品集。少女画だけを見ていては分からないルネの魅力がたっぷり収録されている。「自分の中に独自の夢の世界を持っている」と語るのは、デザイナーであり、ルネの古くからの友人であるコシノジュンコ。
ルネのエキシビションのキュレーションを担当した米原康正は、ルネの男性画を時代レスだと評価している。その事実を裏付けるように、2002年に弥生美術館で行われた回顧展は異例の大盛況で、ルネの絵は若い世代からも人気を集めるようになった。芸人のヒコロヒーはルネの作品が時代を超えて愛される理由をニュートラルさにあるのではと説明する。
「一貫して表現したいものがあって、自分にしか描けないものを描き続けた。その向き合い方が、すごくシンプル。あと、フラットな感覚もあったんだと思います。少女の絵を見ても、ファンシーでかわいらしくて女の子っぽいモチーフを描いてはいるけど、“女性のもの”と決めつけてない感じがするんですよね。」
ルネのゲイアートは、国内だけでなく海外からも高い評価を受けている。かくいう私も内藤ルネのファンの一人。古さを感じさせないルネの描く男性画は、LGBTQへの考え方が大きく変化しつつある今こそ、性的マイノリティに悩む人たちにとっての拠り所になるのではないか。
最後に、一つだけ。少女の絵と男性画、個人的にはどちらも大好きだけれどゲイアートだけを集めてくれるなんて、この本はファンの心理というものを良く分かっている。内藤ルネの知られざるもう一つの顔を紹介する良著だ。
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