「2つの病」への処方箋 最新医学で一番正しいアトピーの治し方

高井浩章 経済記者

『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』ダイヤモンド社
大塚篤司/著

 

 

いきなり私事で恐縮だが、私は子どものころ「アトピっ子」だった。中学生ぐらいからほぼ症状はおさまり、高校時代にはほぼ完治したが、その後も定期的に肌のトラブルには悩まされてきた。

 

この本の読後、率直に頭に浮かんだのは、「ステロイドを適切に用いる標準治療で治った私は恵まれていたのだな」という思いと、「この本がもっと早く出ていれば」という無いものねだりだった。

 

本書は「2つの病」に戦いを挑んでいる。「1つ目の病」はもちろん、いまだに謎の多いアトピー性皮膚炎という病気そのものだ。「2つ目の病」は、ステロイドの悪魔化に代表される医療不信という病だ。後者には、患者の不安に付け込むアトピービジネスも含まれる。

 

素晴らしいのは、この2つの困難な戦いに、著者が極めて抑制的な筆致で臨んでいることだ。

 

最新の治療法に関して、冷静にエビデンスを示して理解を促す文章を書くのは、研究者であり臨床医でもある筆者にとって、さほど困難な作業ではなかっただろう。現時点でのベストの治療法、治験中の薬や人工知能を活用した将来展望まで整然とした記述が続く。私個人としても、ここ10年ほどこの分野の情報をアップデートしていなかったので、大変勉強になった。

 

唸ったのは、アトピービジネスと民間療法を取り上げた部分の筆の運びだ。行間からは怒りがにじんでいるものの、この部分でも筆者は冷静に、徹底してエビデンスを示す姿勢を崩さない。アトピービジネスに対しても、糾弾ではなく、「なぜ患者が標準治療から脱落してしまうのか」「それを解消するために医療に関わる人々と患者は何ができるのか」という問題解決から焦点を外さない。

 

医療不信、アトピーで言えば「脱ステロイド」に代表される現象は、根深く、解決に骨が折れる問題だ。筆者は現場で怒りと無力感に苦しんできたであろうと想像する。元患者ではあるが、「第三者」でしかない私ですら、はびこる悪徳商法には許しがたい怒りを覚える。

 

それを乗り越え、単に「間違いだ」と断罪するのではなく、医療の提供者側の誤りや患者やアトピーの子を持った親の心の動きまで視野に入れて、ここまで冷静で読みやすい文章に仕上げる忍耐力と誠意には頭が下がる。原動力となっているのは「アトピーで苦しむ人を、できるだけ多く、できるだけ早く、減らしたい」という一念だろう。

 

医療不信の犠牲者は、常に患者だ。それは様々なワクチンを巡る日本の現状を見ても明らかだ。
アトピーに直接、関係を持たない人にも、この「2つ目の病」が起きるメカニズムとそれに対する処方箋を学ぶ上で、広く読まれてほしい。

 

『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』ダイヤモンド社
大塚篤司/著

この記事を書いた人

高井浩章

-takai-hiroaki-

経済記者

1972年生まれ、愛知県出身。経済記者・デスクとして20年超の経験がある。2016年春から2年、ロンドンに駐在。現在は都内在住。三姉妹の父親で、デビュー作「おカネの教室」は、娘に向けて7年にわたって家庭内連載した小説を改稿したもの。趣味はLEGOとビリヤード。noteで「おカネの教室」の創作秘話や新潮社フォーサイトのマンガコラム連載を無料公開中。

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