ハードすぎて耐えられない、ヤバすぎる「誕生日会」連作集。最後、全て見事に救ってみせる妙技を堪能大満足!

竹内敦 さわや書店フェザン店 店長

『お誕生会クロニクル』光文社
古内一絵/著

 

様々な人々のお誕生会を主題にした連作短編集。第一章の「万華鏡」を読んだとき、最初は少し平凡かなと思っていた。ところが後半の話の持っていきかたに「うまい!」と感嘆してしまう素晴らしい一編だった。ネタバレになるからはっきりとは言わないが、まさに万華鏡のよう。ずっと見えていた景色、それをくるりと回して表れた違う景色。偶然のワンシーンが強く印象に残った。

 

子どもにとってお誕生会は本来お祝い事だし喜ばしいもので楽しいものになるはず。それが難しい人間関係を反映して後味の悪いものになってしまうこともある。学校でのうまくない友人関係やこじれた親子関係が現れてしまうとおぞましいイベントになる、こともある。

 

自分は男子だからか主役になるお誕生会は開いたことはなかった。女子のお誕生会に呼ばれたことはある。仲良し10人くらいのお誕生会でつつがなく楽しんだ。ケンカしたりふられたりはしたし、ドラえもんで言えばのび太のポジションに近かったが、生きにくい人間関係なんてなかったから普通だと思っていた。今思うと恵まれたほうだったかもしれない。昔の子どもは単純だったと思う。仮面ライダーもただ闘って敵を倒すだけで良かった。今の子どもは溢れる情報に接するせいかずいぶんませた考え方をする。でも人生経験が少なすぎて感情の処理の仕方がわからない。難しい時代なのかもしれない。

 

人間関係の問題が生じるときはいつでも大問題だ。人の醜い黒い感情からくるいじめや偏見にこじれる状態は耐えられるもんじゃない。耐えられない状況がつづられていき、読み進めるのすらつらくなった。
でもね。救われるんだ。必ず救いはやってくるんだ。
それぞれの章の最後には救ってくれる展開に勇気をもらえた。

 

なんかさ、やなことあっても、ま、なんとかうまくいくようになるさ。
最近あった嫌なことを思い起こしてそんなふうに想う。しんみりと心を軽くしてくれる小説だ。

 

最後の二編には涙した。東日本大震災の3月11日に生まれた双子。親は悲しい誕生日にしたくないから大震災のことを教えずにいたが…。
子どもの健気さがたまらなくて泣けた。自分に子どもができてから子どもの物語にめっぽう弱くなった。

 

大震災自体を書いたものはもう読めなくなった。津波を書いたものはとくに。これはそうではなかった。大震災があったことを受けとめてその事実とともに生きていく姿を書いている。新しいありかたのメッセージと受け止めた。

 

『お誕生会クロニクル』光文社
古内一絵/著

この記事を書いた人

竹内敦

-takeuchi-atsushi-

さわや書店フェザン店 店長

声に出して読んだら恥ずかしい日本語のひとつである「珍宝島事件」という世界史的出来事のあった日、1969年3月2日盛岡に生まれる。地元の国立大学文学部に入学し、新入生代表のあいさつを述べるも中退、後に理転し某国立大学医学部に入学するもまたもや中退、という華麗なるろくでもない経歴をもって1998年颯爽とさわや書店に入社。2016年、文庫のタイトルを組み合わせて五七五を作って遊んでいたら誰かが「文庫川柳」と名付けSNSで一瞬バズる。本を出すほどの社内のカリスマたちを横目で見ながら様々な支店を歴任し現在フェザン店店長。プロ野球チームでエース3人抜けて大丈夫か?って思ってたら4番手が大黒柱になるみたいな現象を励みにしている。

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