2021/09/30
高井浩章 経済記者
『最悪の予感 パンデミックとの戦い』早川書房
マイケル・ルイス/著 中山宥/翻訳
当代屈指のベストセラーライターが新型コロナウイルスとの戦いの
徹底的に「人」にフォーカスして、ヒューマンドラマの積み重ねからテーマの全体像を浮かび上がらせる手法は本作でも健在。
米国の保健衛生システムに不案内な読者でも、ホワイトハウスやCDC(感染対策センター)のような中央集権的な組織と各州の多様な自治がせめぎあう複雑な力学がスッと頭に入ってくる。
感染症対策一般や新型コロナを関する知見でも得るところはあるが、読みどころであり、一番教訓になるのは危機管理や意思決定、組織論の部分だろう。
読み進むにつれて、抜群の面白さへの興奮と同じくらいの熱量で、
筆者の視点が「現場寄り」なのを割り引いても、メンツや保身、
怒りやいらだちの次に浮かび上がってくるのは、恐怖と諦念だ。
脅威を軽視して後手に回る政府・行政のちぐはぐな意思決定、
人間社会の脆弱さと「病巣」は、本作が抉り出す米国と大差ない。
新型コロナとの戦いはなお終わりが見えない。
残念ながら、「今、読まれるべき本」という本書の地位はまだまだ安泰だろう。
『最悪の予感 パンデミックとの戦い』早川書房
マイケル・ルイス/著 中山宥/翻訳