2021/12/13
横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店
『震えたのは』ナナロク社
岩崎航/著
震えたのは
あなたのうたが 私のこころを貫いたから
震えたのは
あなたの言葉に 燃えさかるいのちが宿っていたから
いま あなたの瞳は 揺れていますか
あなたのうたが
私の身体へ 想像以上の重みとともに のしかかる
あなたのうたは 重力にも似て
姿かたちはなくとも
跳ねまわる人差し指を
無防備な背中を
容赦なく 駆け抜けていった
身体がこんなに重いと 知らなかった
身体はこんなにも健気だったと 気づかなかった
きっと あなた
とうのむかしに引きずりこまれ
ひとり闘い ひとり敗れ
明けない夜を 過ごしたのでしょう
絶望のはて
紡ぐしかないと 描くしかないと
至ったあなたに なんと声をかけたらよいのでしょう
答えなど持ち合わせていない私は
投げかけることすら ためらってもしまうけれど
でも
言葉の前では
つかい古した身体を棄てて
たましいだけを持ち合わせ
衣のままで
ただ言葉に 焦がれるふたりであれたら
あなたが紡いだ うた
風にのり 雲となり流れ
私の住む街にもたどりつきました
木々の緑は繁り 陽のひかりは金色にたなびき
青の合間を縫うように 鳥たちが歌いながら飛んでいく
ガラスごしに あるいはつかの間の遠出に
あなたもきっと 見つめた景色
いつだってあなたが先
いつだって言葉は あなたの方から零れ落ちた
言葉はきっと あなたがすきだから
震えたのは
あなたのこころを 受けとったから
震えたのは
あなたのかけらを灯してしまったから
『震えたのは』ナナロク社
岩崎航/著