佐渡島庸平を読む。『ぼくらの仮説が世界をつくる』の地図

三砂慶明 「読書室」主宰

『ぼくらの仮説が世界をつくる』PHP文庫
佐渡島庸平/著

 

私が佐渡島庸平さんの『ぼくらの仮説が世界をつくる』という本をなぜ手に取って読みはじめたのか、その理由を思い出すことはできませんが、読んだ時とても驚いたことを今もはっきりと覚えています。

 

私は本屋で働いているので、出版社のことや、本の背景について、教えてもらう機会があり、また自分でも調べて読むのが好きなので勉強してきたつもりだったのですが、この本に書かれていることは、おそらくこの本でしか読むことができず、今も繰り返し読み続けている私にとって、とても大切な本の一冊です。

 

一体、この本に何が書いてあるのか。
たとえば、出版社の強みはどこにあるのか、という問いがあります。
私は単純にその答えはコンテンツではないか、と思いながら読み進めていくと、その特徴が「流通」にあると、自分の仮説はいとも簡単にひっくり返されてしまいました。
この構造は、新聞社にも共通しており、私は新聞社の強みを、情報の精度だと漠然と考えていましたが、新聞社も最強の流通業者であり、宅配業者なのだと、その強みを分解していき、ビジネスモデルの「骨格」を明確に言語化してしまいます。

 

『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』は、『宇宙兄弟』に導かれて、現代のビジネスの基本に、コミュニティが欠かせないことを教えてくれる本です。

 

「一番、成功しているコミュニティは何か? と考えたときに、僕はキリスト教を思い浮かべた。聖書は、最も売れている本である。聖書がわかりやすいかというとそんなことはない。逆に、わかりにくくて何度も読まないといけない。物語性が高くないから、一気に読むことは逆に難しい。だからこそ、誰もがそれについて語る。」

 

とまるでその視点は手品のようですが、『観察力の鍛え方』を読み進めると、目に見えるものだけではなく、目に見えないものをどのように観察していけば、その本質にたどりつくことができるのか。その道筋をたどることもできます。
一冊の本を読み直すだけではなく、佐渡島庸平さんの本を読み継いでいくと、『ぼくらの仮説が世界をつくる』の世界観がより立体的に広がっていく。

 

佐渡島庸平さんと予防医学者の石川善樹さん、『漫画 君たちはどう生きるか』の漫画家、羽賀翔一さんとの三人の共著、『感情は、すぐに脳をジャックする』に驚かされたのは、私たちは感情を通して世界を見ているという気づきです。

 

たとえば、機嫌のいいときと気分が悪いときに、同じことを頼まれたら、同じように受け止め、対応することは難しいのに、私たちは自分が、いまどんな感情を抱いているかに注意を払っていません。
感情にはそもそもネガティブやポジティブもないはずなのに、私たちは当たり前のように、優劣をつけ、無意識に「良い感情」と「悪い感情」に振り分けて、極力、「良い感情」を選ぼうとしてしまいます。しかし、そもそも良い感情と悪い感情とはなんなのか。
ハーバード大学の感情と意思決定の研究に使われている「感情のチェックリスト」を例に、まずネガティブな感情が、「怒り」「イライラ」「悲しみ」「恥」「罪」「不安・恐怖」に分類され、次にポジティブな感情には、「幸せ」「誇り」「安心」「感謝」「希望」「驚き」の六つあることを紹介します。感情を十二に分類したあとに、ネガティブやポジティブの感情が実際に、私たちのパフォーマンスに影響をしていると教えてくれます。
たとえば、ポジティブであることは歓迎されがちですが、たとえば「幸せ」はリスクを低く見積もる傾向があるので、必ずしも好ましいものとは限らないのです。
にもかかわらず、私たちは、私たちの人生に大きな影響を及ぼす、感情について、よく知ろうとはしていません。
『感情は、すぐに脳をジャックする』は、この身近でありながら注意されることの少ない「感情」を探究する本です。そして、感情を起点に、もう一度、私たちの日常を見渡すと、もう一つ別の視点が立ち上がってくることを、明確に言語化してくれます。

 

佐渡島庸平さんの本が、他のビジネス書と違うのは、そもそも答えを目的にしていないことです。問うこと。考えること。その本質がどこかにあるかを楽しむこと。それはあたかも現代の哲学対話のよう。
私は学校で学ぶということを楽しめなかったのですが、佐渡島さんの本を読んでいると、遅まきながら学びの本質を佐渡島さんの気づきを通して学ぶことができます。そして、その問いの傍らにはいつも本があります。だからずっと、佐渡島さんの本を読むと、いつも誰かと話したくなります。

 

編集部より
本記事を執筆された三砂慶明さんの読書エッセイ集『千年の読書 人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)が1月14日に発売となりました。
古典から最新の本、小説からノンフィクションまで、稀代の読み手である三砂さんが厳選した、生き方を変えるほどの力を持った本が250冊以上紹介されています。
ぜひお手に取って新たな本との出会いを楽しんでみてください。

 

また、この本の出版を記念してイベント開催も行われています。
詳しくが下記のページをご覧ください。
https://note.com/dokushoshitsu/n/n2009b44abaa3
※新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、日程やイベントの変更等がある場合があります。詳しくは上記のページをご確認ください。

 

『ぼくらの仮説が世界をつくる』PHP文庫
佐渡島庸平/著

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

「読書室」主宰

1982年、兵庫県生まれ。本と人とをつなぐ「読書室」主宰。 大学卒業後、株式会社工作社などを経てカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社。梅田 蔦屋書店の立ち上げから参加。これまでの主な仕事に同書店での選書企画「読書の学校」やNHK文化センター京都教室の読書講座などがある。著書に読書エッセイ『千年の読書 人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)がある。写真:濱崎崇

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