「女らしい色」「男らしい色」って何? ジェンダー問題を考える入門書

馬場紀衣 文筆家・ライター

『セックス/ジェンダー 性分化をとらえ直す』世織書房
アン・ファウスト・スターリング/著 福富護 その他/翻訳

 

 

小学生のころ、私のランドセルの色は赤だった。男の子たちは黒色のランドセルが定番で、遠くから見てもどちらが女の子で男なのか間違えようがない。ランドセルの赤と黒は、社会的に生み出されたジェンダーというコード化の例のひとつだ。背中のかばんの色をひと目見ただけで、誰でもその子が女の子か男の子かを言い当てることができた。でも、いったい誰がいつそれを望んだのだろう。

 

赤ちゃんのおもちゃや洋服を見ていると、女の子にはピンク、男の子にはブルーというほとんど強迫的ともいえる振り分けがなされていることに気づくはずだ。著者によれば、赤ちゃんの性を知りたいという親(大人)の欲求は1920年頃にはじまったという。そのことを示してくれる興味深い例がある。

 

1914年に「サンデー・センチネル」という合衆国の新聞記事は、子どもの洋服の色で迷う母親に「男の子にはピンクを与え、女の子にはブルーを与える」ようにアドバイスしている。1918年の「レディース・ホーム・ジャーナル」には、はっきりとしたピンクは強い色だから男の子にふさわしく、デリケートで優美なブルーは女の子に、と解説している。こうしたジェンダーに対する色の振り分けには理由がある。

 

ヨーロッパのカトリックの伝統によると、ブルーは信用と安定の象徴で、処女マリアと結びつく色だった。しかし1930年代にナチスドイツが同性愛の男性にピンクの三角マークをつけたことで、ピンクは女らしいとの考えが広まったという。しかし、第二次世界大戦後、ピンクとブルーの見解は180度逆転する。

 

性と衣服の歴史をさらに遡ってみる。1880年代後半、すべての幼児は長くて白いドレスを着ていた。歩きはじめてからも、男の子と女の子の衣服にはわずかな違いがあるだけで、子ども服のスタイルに決定的な差は見られないのだ。著者によれば、この時代の大人は「ドレスによって男の子と女の子を区別するよりも、大人と子どもの区別をすることに心を奪われていた」という。

 

子ども服における色の逆転は、女らしい色、男らしい色というのが私たちの時代特有のものであるということ、普遍的で不変であるように見えていることが、実は社会的に作りだされたものにすぎないという事実を再確認させてくれる。とするなら、近い未来ではジェンダーに関する文化的な反転が来るかもしれない。著者は、ジェンダーの多様性がより認識され、受け入れられる日が遠からず来ることを信じている。

 

「ゲイ同士の結婚は国の方で揺るぎなく認められ、様々な程度のトランスジェンダーについても、社会的に目立たなくなるだろう。生まれつきの性別に一致しないジェンダーの示し方をする人びとがもっと自由に生きられるようになり、運転免許証やパスポートに男性か女性かを明示しなくてもいい日がくるかもしれない。もしこれらの多くが実現するならば、赤ちゃんや子どもたちのジェンダーの発達に反映されるであろう。」

 

本書はセックスとジェンダーについての一般書でありながら、ジェンダー問題に含まれる生物学的な諸側面を理解するのに役立つ多彩なアプローチを取りあげている。ジェンダー問題を考える人にとって優れた入門書となってくれるはずだ。

 

『セックス/ジェンダー 性分化をとらえ直す』世織書房
アン・ファウスト・スターリング/著 福富護 その他/翻訳

この記事を書いた人

馬場紀衣

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文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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