2022/11/08
小説宝石
『真夜中の密室』文藝春秋
ジェフリー・ディーヴァー/著
SNSで情報を発信する女性インフルエンサー宅への侵入事件が続いた。犯人は厳重な錠前をスムーズに解錠して部屋に入り、破った新聞紙に因果応報というメッセージと、解錠師(ロツクスミス)という署名を残して去って行ったのだ。下着と包丁が盗まれただけで、眠っていた女性に危害はなかったが、犯人がSNSに侵入の証拠写真を投稿したことで、犯行は知れ渡る。一方、殺人罪で逮捕された大物ギャングの裁判に検察側の証人として出廷したリンカーン・ライムだったが、反対尋問で証拠分析過程の不備を指摘され、ギャングは無罪になってしまう。自分の人気低下を恐れた市長は、ライムとニューヨーク市警の契約を解除し、捜査に携わることを禁止した。
怪盗対名探偵の現代版といえるのが、リンカーン・ライムシリーズで、実に三年ぶりの登場だ。この間に刊行が続いていたコルター・ショウシリーズでも言及されていたが、ネットによる発信がもたらす危険性がテーマの一つになっている。
他人のテリトリーを侵すことに無上の喜びを感じるのがロックスミスだ。狙いをつけた女性の投稿映像を精査してデータを集め、卓越した解錠能力で犯行に及ぶのだ。彼女たちを、目立つことで捕食されやすいアルビノの鹿と決めつけるなど、独自の論理を持つ、このシリーズにふさわしい犯罪者である。
公式捜査ができないことに加え、大物ギャングはライムへの報復を企てており、さらに社会制度の破壊を企む闇の政府が存在するというデマを拡散するサイトの存在が事態を複雑化していく。
遅滞なく進む起伏あるプロットは健在。カットバックを巧みに使った構成によって、何重もの逆転劇が際立つのだ。やはりディーヴァーは面白い。
こちらもおすすめ!
『黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良』祥伝社文庫
松嶋智左/著
バイクアクション炸裂する警察ミステリー
事故死した男が持っていた免許証は、署員が関わらなければ作れない偽造品だった。その直後、ある署員が庁舎から転落し意識不明に。はたして彼が犯人なのか。
巡査部長・野路明良シリーズの二作目だ。運転免許センターが舞台になる警察小説は初めてではないか。前作『開署準備室』はタイトルの通りの地味な話かと思ったら予想を裏切る展開にびっくりしたものだったが、本書も同様。謎解きの妙に加え、バイクアクションが炸裂する凄まじいクライマックスが待ち構えている。
女性白バイ隊員だった作者ならではのシリーズだ。
『真夜中の密室』文藝春秋
ジェフリー・ディーヴァー/著